No.281
2004.8

ISASニュース 2004.8 No.281 


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世界最小の飛行機を飛ばしたい

宇宙科学情報解析センター 高 木 亮 治  

たかき・りょうじ。
1966年,岡山県生まれ。
京都大学大学院工学研究科航空工学専攻修了。
専門は数値流体力学。
1991年,航空宇宙技術研究所研究員。
2003年,宇宙科学研究本部助教授。
航空宇宙における流体の数値解析技術に関する研究を行っている。


 dash   小型飛行機を飛ばす研究を始めたそうですね。
高木: 飛行機は空気の流れを利用して空を飛んでいます。スーパーコンピュータを使って,機体のまわりの空気の流れを計算機上で再現する数値流体力学が私の専門です。飛行機まわりの空気の流れを精度よく再現して,翼や機体の形状によって機体にどのような力が働くのか,機体がどのように加熱されるのかを調べ,設計に役立てるのです。旧・航空宇宙技術研究所で宇宙往還機や次世代超音速旅客機まわりの流れの研究を行っていました。昨年10月に宇宙研に来てから,小型飛行機についての研究を始めました。数年前から,アメリカをはじめとしていろいろなところで,主に偵察や災害時の調査を目的として,数十センチメートルサイズの飛行機の研究が盛んに行われています。私が現在考えているのはそれよりももっと小さい,数センチメートルサイズの飛行機です。
  
 dash   小型飛行機は,普通のものと違うのですか。
高木: 普通,空気には粘性があります。普段私たちはあまり空気の粘性を気にしていませんが,数センチメートル程度の飛行機になると通常の大きさの飛行機に比べ,相対的に空気の粘性の影響が大きくなります。そのため,通常の飛行機を設計するときの知識や常識,これまでの経験が当てはまらないことが多いはずです。現在の飛行機の形状は,どれも同じような形をしていますよね。現在の旅客機の飛行速度で,ああいったサイズの機体を飛ばすには,あの形状が最適だからです。しかし条件が違うと,まったく別の形状が最適になるかもしれません。私たちのまわりを見回してみると,数センチメートルから数十センチメートル程度の大きさでは昆虫や鳥がいます。昆虫や鳥は普通の飛行機と違って,羽ばたくことで空を飛びます。昆虫や鳥が羽ばたくのは,彼らのサイズでは,羽ばたく方法が飛ぶのに一番効率が良いからだという説があります。サイズや飛行する環境の違いによって,飛ぶために最適な方法や形状が変わるのです。数値計算は,いろいろと条件を変えて調べることができます。小型飛行機を飛ばすにはどのような方法や形状が最適なのかは,まだ十分には分かっていません。いろいろな形状や飛び方のアイデアが出せるので,とても楽しいですね。
  
 dash   小型飛行機の魅力は何ですか。
高木: 今までにない形状や飛行方法をいろいろと考えられるという点です。昆虫,特にトンボを観察すると,空中に静止したり,急に反転したりと自由自在に空を飛んでいます。あんな飛び方は普通の飛行機にはまねができない。例えば,羽ばたき飛行機なら,ああいった飛び方が可能になるかもしれません。

 小型飛行機は災害時の調査や環境観測など,いろいろな用途に使えると思います。特に小型飛行機ならではのメリットとして,一度にたくさんの場所を観測できる,たとえ1機か2機がトラブルに巻き込まれても,たくさんあればカバーできる,といったことが考えられます。大量生産でコストが下がれば,もっとさまざまな可能性が広がると思います。小さな飛行機がたくさん群れを成して飛ぶところを想像すると面白いですね。ひょっとすると,惑星探査に最適かもしれません。

  
 dash   小さいころから飛行機が好きだったのですか。
高木: 飛行機やロボットなどのメカ,SFアニメが好きでした。ただし,SFアニメを見ていても,パイロットやロボットの操縦士になって敵を倒したいと思うのではなく,飛行機やロボットを作ってみたいと考える方でしたね。

 大学では航空工学科に進み,最初は制御を学びました。数値流体力学に出会ったのは大学院のときです。きちんと空気の流れが再現できること,形状などのわずかな違いが正直に結果として現れるところが面白かったですね。

 かつては,模型を使った風洞実験の測定と数値計算の結果が食い違うと,数値計算が間違っていると言われ,たいていは信用されませんでした。しかし最近では,計算機と計算技術が非常に進歩したことで,数値計算の信頼性も高くなりました。大規模な剥離がないなど比較的きれいな流れでは,もし結果が食い違うと風洞実験の測定の仕方もおかしかったかもしれないと,風洞の実験屋さんも私たちの計算結果を真剣に見てくれるまでに信頼性が上がりました。現在でも数値計算は実際の飛行機づくりに役立てられていますが,今後ますますその範囲を広げていくことが課題だと考えています。

 休日には,最近少し大きくなった息子と紙飛行機を飛ばして遊んでいます。紙飛行機も,思わず数値計算してみたくなりますね(笑)。


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