No.281
2004.8

ISASニュース 2004.8 No.281

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初見参

松 尾 弘 毅 


 いまISASニュースの2004年5月号を手にしていますが,健在ですね。体裁についての違和感もなくなりました。発刊以来所長就任まで,ISASニュースには深くかかわってきました。どういうわけか編集委員は工学の年寄りと理学の若手の組み合わせで,交流の場でもありました。「東奔西走」と「ISAS事情」をホームグラウンドにして,各欄に執筆しましたが,「いも焼酎」は初めてです。何となく,所外の然るべき方という感じでお願いしていたと思いますが,それに該当するようになったということでしょうか。自由題の随想というのも,私にとっては難題でした。もともと思弁的な性質でないことはともかく,事実についてはISAS事情に書いてしまう,意見や好みについては否応なく平衡感覚が要求されるので面倒くさい,趣味ならば無難ですが私の場合には俗過ぎて書きようがない,等々です。

「みどりII」の実地視察のひとコマ(筆者は向かって左)

宇宙開発委員として

 さて,宇宙研所長を辞任して,引き続き宇宙開発委員に就任しました。宇宙開発委員会は文部科学省に属し,私を含めて3名の常勤委員と2名の非常勤委員から成っています。法令上の主たる所掌は
 ・JAXAの中期計画の元になる長期計画の策定
  (委員会の議決を経て大臣が定める)
 ・JAXA理事長人事への同意
ですが,JAXAとの普段のかかわりは長期計画の実施状況の追跡ということになります。特に,プロジェクト評価,安全対策,重大な不具合調査は,長期計画の「業務運営に関する重要事項」の中に根拠規定があって,委員会の役目になっています。身分は特別職公務員で,その点だけでは,大臣や国会議員の方々と同じです。国家公務員法を読んでいくと,総則の最後に「国家公務員には一般職と特別職とがあって,この法律は特別職には適用しない」ということが書いてあります。要するに読み損ですね。

 就任してからしばらくは,長期計画策定の時期に当たっていました。それにしても所長時代に比べて,また機関統合目前の現場の慌ただしさに比べて,嘘のように穏やかな日々を送っておりました。しかし,「みどりII」の運用停止,H-IIAロケット6号機の指令破壊,「のぞみ」の火星周回軌道投入断念と続いて,ただいまは調査部会長として寧日のないありさまです(この件については先般稲谷君から,それが仕事ではないのかと諭されましたが)。この辺の様子は進行中のことではあり,またoral presentationの方が適当かとも思いますので,ここまでにします。ただ,ピンチを大ピンチとせぬよう,また紙を増やさぬよう,微力は尽くしているつもりです。


太陽系探査の動機

 先日,米国戦略国際問題研究所のインタビューを受けました。ブッシュ大統領の新方針“A Renewed Spirit of Discovery”に関連した質問事項「太陽系探査の動機を科学,探査,国家威信,商業的価値のいずれに求めるか」という質問に対する,ほかに答えようもない私の返事は,私見と断った上で,以下のようだったと思います。

 当面の動機は科学と探査であろうが,この両者は密接にかかわり合っている。あえて狭義に後者を人類の活動領域の拡大(無人を含む)の側面だけに限定すれば,当面直接的な成果が期待できるのは科学であり,この認識のもとに我が国においても数々の計画が現実に企画され実行されている。

 必ずしも具体的な成果を伴わない狭義の探査は,我が国では実施に至る支持を得難いが,一般の人々あるいは当局者が立場を離れて宇宙に夢を見るとき,それは探査の側面にではないのか(現在は科学的探査の形でしか実現していないが)。この両者が結び付くとき,人類にとって最も根源的な謎の解明への期待と新たな可能性に対する挑戦姿勢への共感から,大きな流れとなって人々を魅了するのではないのか。その意味で今回の大統領提案は,自然なものといえよう。

 1994年宇宙開発委員会の長期ビジョン懇談会は,有人月面天文台までをも視野に入れた段階的な月探査計画を提案した。これは全体として包括的な承認が得られるような性格のものではなかったが,その開始部分に当たるのが現在進行中のSELENE計画である。これは,当時の宇宙科学研究所が科学的な関心から,また,宇宙開発事業団が探査に対する関心から共同で取り組んだ計画で,間もなく打上げ機会を得ようとしている。このように,我が国においても科学と探査の結び付きにはすでに前例があり,原案に沿っての継続を含め新しい芽生えの素地は十分にある。

 科学についていえば,1986年のハレー彗星探査に始まり,「ひてん」による月スウィングバイ実験,残念ながら失敗に終わったが「のぞみ」による火星探査,小惑星に向けて航行中の「はやぶさ」と,我が国は自在の惑星間空間航行能力を有する数少ない国の一つとして実力を蓄えてきた。重点目標についてのコンセンサスのもと,この我が国にとっては比較的新しい分野である惑星科学すなわち太陽系の科学的探査を,確実に推し進めていくことになろう。

 NASAではシフトが進んでいるようで,4月に来日したアスラー地球科学局長が「局の方向は,ブッシュ提案に非常によく適合している」と強調していたのが印象的でした。

 それでは「はやぶさ」の無事を願いつつ。これで5日間メールの着信がありません。外界には見放されたかな。

(まつお・ひろき,宇宙開発委員) 



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