No.276
2004.3

シンポジウム「月で拓く新しい宇宙開発の可能性と日本」開催

ISASニュース 2004.3 No.276 


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 2004年1月23日(金),シンポジウム「月で拓く新しい宇宙開発の可能性と日本」が,経団連会館の経団連ホール(東京都千代田区)において開催されました。約530名の方が参加され,立ち見も出るほどの盛況ぶりでした。出席者には,一般や学生の方も多く見受けられました。また,講演やパネル討論において多くの質疑応答もあり,活気に満ちた会合でした。


月探査の意義

 まず,シンポジウムの主催者である宇宙航空研究開発機構(JAXA)を代表して,間宮 馨副理事長があいさつしました。次に,五代富文IAF(国際宇宙航行連盟)前会長が,「日本における月探査と将来展望」と題する基調講演をされました。月は古来,文化的活動の題材として親しみのある存在であること,月探査には科学的意義に加え,総合科学技術,国際協力,国民の夢と希望,利用などの意義が考えられると述べられました。また,中長期的な月探査計画を産学官で議論することを提案されました。


世界の月探査計画

 次に,第部「世界の月探査計画と将来戦略」に移り,NASAESA,インド,中国の月探査計画が紹介されました。

 まず,米国の新宇宙政策を推進するために,NASAに新設された“Office of Exploration System”のMankins氏が,新宇宙政策を説明しました。コロンビア号の事故を受け,NASA内で,今後の宇宙開発をどうすべきかについて徹底した議論がされたそうです。その結果,新宇宙政策は策定されたとのことです。フロンティア拡大を目的とし,まず月面で本格的活動を実施し,その結果を見極めた上で,火星などに人間を送ろうとする計画です。

 次にESAFoing氏が,SMART-1(電気推進の技術実証を目的として2003年9月に打ち上げられ,現在月に向かって飛行中。月の周回観測を予定)の現状と月・火星探査を目指すESAの長期計画“Aurora”について説明しました。Aurora計画は,約20年後に人とロボットが協調して火星を探査することを最終目標とし,その前段階として,ロボットを中心とした月探査を継続的に実施しようとするものです。その全体計画は2001年ESA閣僚会議で了承されているとのことです。

 インド宇宙研究機関のGoswami氏は,2008年打上げを目指して開発を進めている月探査機Chandrayaan1号の説明を行いました。

 中国からは「嫦娥(じょうが)計画」の全体構想と1号機の周回衛星などのミッションが提示されました。当日は旧正月にあたるため,講演者は来日できませんでしたので,佐々木 進宇宙科学研究本部教授が論文を代読されました。


月探査への熱い期待

 第部「日本における月探査の取り組み―過去・現在・未来―」では,水谷仁宇宙科学研究本部教授が「我が国の月探査の目指すもの」,滝澤悦貞月探査技術開発室長・SELENEプロジェクトマネージャが「SELENE計画の目指すもの」,松本甲太郎総合技術研究本部チーフマネージャが「将来の月探査で目指すもの―科学と利用―」を講演しました。

 第部では,「今なぜ再び月を目指すのか―日本の選択は」を論題として,パネル討論が行われました。パネリストは,井田茂東京工業大学理学部助教授,海部宣男国立天文台台長,川勝平太国際日本文化研究センター教授,野本陽代宇宙開発委員会委員,松本信二CSPジャパン株式会社社長,吉田和男京都大学大学院経済学研究科教授で,的川泰宣執行役が司会を務めました。

 月科学,技術開発だけでなく,経済,社会,文化などの多様な視点から活発な議論が展開されました。以下に主な提言を列挙します。なお,会場からも多くの意見が述べられました。

月面上の活動は,その実現に多くの技術開発を必要とし,技術開発の動機となる。また逆に,技術開発の大きなシーズ(種)ともなる。
月面天文台が実現すれば,現状の100倍以上の精度が得られ,21世紀に天文学が目指す太陽系外の惑星観測が可能となる。
熱意を分かりやすく国民に説明すべき。特に母親層へアピールすることが重要である。
月探査計画そして宇宙開発計画を国家戦略として策定すべきである。米国の新宇宙政策への対応は,この戦略をもとに検討するのが望ましい。
産学官で,将来の月探査計画を検討する場を設けるべきである。

 このシンポジウムで寄せられた月探査への一般の人々の熱い期待や,基調講演やパネル討論での提言を受けて,私たちも月探査計画に対する長期ビジョンを作っていく必要性を強く感じました。

(滝澤 悦貞) 


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