No.251
2002.2

第4章 粒子加速と宇宙ジェット  

ISASニュース 2002.2 No.251 


- Home page
- No.251 目次
- はじめに
- 「あすか」の軌跡
- X線天文学の予備知識
- 第1章 X線で探る星の世界
- 第2章 天の川銀河とマゼラン星雲
- 第3章 ブラックホール
- 第4章 粒子加速と宇宙ジェット
- どうして大金持ちは生まれるか
- SS433
+ マイクロクエーサー
- 宇宙の巨大な加速器「ジェット」とブレーザー天体
- 第5章 宇宙の巨大構造と暗黒物質
- 第6章 X線天文学はじまって以来の謎に迫る
- 「あすか」からAstro-E2へ

- 宇宙科学研究所外部評価要約
- 編集後記

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■マイクロクエーサー:銀河系最速のジェット

 宇宙ジェットの中には非常に大きな速度を持つものがあり,見かけ上光速を超えて運動しているように見えることがあります。このような「超光速ジェット」は最初,銀河系外にあるクエーサーから見つかりました。ところが1990年代になり銀河系の中からも,GRS 1915+105GRO J1655-40という超光速ジェットをもつつの天体が発見されました。ジェットの(見かけではない)本当の速度は光速の0.92倍にも達し,「銀河系最強のジェット」SS 433に対して「銀河系最速のジェット」と呼べるでしょう。これらの天体は,クエーサーと比べて7-8桁も小さい質量のブラックホールを含む連星系(『ブラックホールを区別する』参照)で,クエーサーの縮小版という意味で「マイクロクエーサー」と呼ばれます。どうやら宇宙ジェットという現象はブラックホールの質量に関係なく共通のメカニズムが働いているようです。クエーサーよりはるかに私たちの近くにあるマイクロクエーサーは,ジェットのメカニズムを詳しく探る格好の研究対象です。

図39:SIS装置で撮ったGRS 1915+105のX線スペクトル

 「あすか」はこのつのマイクロクエーサーから,興味深い特徴を発見しました。図39は,X線CCDカメラ(SIS)で見たGRS 1915+105のエネルギースペクトルです。7キロ電子ボルトあたりに,鋭いへこみ(吸収線)があることがわかります。これらは,視線方向に吸収体があり,天体から放射される様々な波長のX線(連続光)のうちある特定の波長だけが吸収されることによって生じます。観測された吸収線は電離した鉄原子によるものですが,その中心波長,幅,へこみの度合を調べることで,吸収体についての詳しい情報が得られます。その結果,毎秒1000kmにのぼる不規則な流れ(乱流)をもつ高温のプラズマが,降着円盤をとりまくように存在していることがわかりました(図40)。もしかしたら,マイクロクエーサーの非常に大きな降着流と関係あるのかもしれません。こうした吸収線から降着円盤の構造を探る方法は「あすか」によって初めて確立され,現在に受け継がれています。

図40:マイクロクエーサーの想像図

 また私たちは,電波で同時に観測することにより,マイクロクエーサーからジェットが噴出する瞬間をとらえることに成功しました。X線でジェットの見えるSS 433と異なり,マイクロクエーサーから観測されるX線のほとんどは降着円盤から放射される成分です。しかし電波ではジェットを観測することができます。図41GRS 1915+105X線・電波の光度曲線(時間に対して強度をプロットしたもの)を示します。X線の強度はバタバタしており,中性子星をもつラピッドバースターと同様に,降着物質が溜っては落ちる「ししおどし」のメカニズムが働いているものと考えられます(『ラピッドバースター』参照)。ここで面白いのは,X線が急に明るくなると同時に,電波も明るくなりジェットが放出されたことを示しています。「ししおどし」に溜った物質がまとめてブラックホールに向かって落ちる瞬間に,ジェットが生成されるのかもしれません。

(山岡和貴,上田佳宏) 

図41:GRS 1915+105の光度曲線。
X線(赤)と電波(青)で同時に取得したものです。


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