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宇宙科学の最前線

超小型深宇宙探査機のスマート通信システム 宇宙機応用工学研究系 助教 冨木淳史

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PROCYONの地上系と初期運用

 PROCYONは、打上げから6時間後にロケットから分離しました。内之浦宇宙空間観測所(USC)の20m局においてテレメトリ受信を開始し、その後、UDSCの64m局に引き継がれてコマンド運用が開始されました。

 図3の運用者(学生など)の前に並んでいるのが、PROCYONの衛星運用システムです。Windows PCに縦置きワイドディスプレイを2面配置し、さらに汎用衛星運用試験ソフトウェア(GSTOS)をVMwareというソフトウェアを用いて仮想化しています。山田隆弘先生のアドバイスを受けて地上試験の段階からGSTOSを使用していたので、打上げ時の初期捕捉・追尾ではGSE(衛星地上試験装置)の復調器とGSTOSをUSCの20m局に持ち込みました。これによって打上げ時のクリティカルな衛星状態の監視をリアルタイムで行うことができました。さらに2015年1月からのUSCの34m局の休止期間には、UDSCの64m局を使用して、「はやぶさ2」とPROCYONの同時テレメトリ受信もこのシステムで実現しました。このようにフレキシブルで低価格な衛星運用システムの利用が可能になったのも、これまでの科学衛星運用・データ利用センターの皆さんのGSTOSの開発努力があったからこそであり、システム構築に当たっては多大な協力とご支援を頂きました。

 PROCYONの運用室は、教員や学生も含め10〜20人ほどが集まり、若さと熱気に満ちあふれ、指令電話(OIS)からはコマンダーとなった学生の「2、1、ゼロ」の掛け声がこだまします。


図3 PROCYONの汎用衛星運用試験ソフトウェア(GSTOS)による衛星管制システムと運用
図3  PROCYONの汎用衛星運用試験ソフトウェア(GSTOS)による衛星管制システムと運用


おわりに

 ついに、深宇宙探査も大学主導によって衛星を設計・開発し、教員と学生が運用するという新時代に突入しました。今回開発した超小型衛星搭載の深宇宙通信システムは、厳しい重量、消費電力、時間的な制約の中で、民生部品を活用し、実現可能な技術の投入を惜しみなく行った結果、当初の想定通り完璧に宇宙空間で動作させることができました。この知見は将来の科学衛星にも生かされていくことでしょう。そして、このような開発は一個人ではできません。採択から運用に至るまで小規模ミッションながらも本当に多くの人たちの手間暇がかかっています。この困難を可能にしたのが、中小企業と宇宙研・東京大学の若手の協働、そしてJAXA内のさまざまな部署、大手宇宙企業の連携でした。組織という枠組みを超えて共通の目的に向かって力を合わせてくださった努力のたまものであり、皆さんに感謝するとともに、この場を借りてあらためてお礼申し上げます。

(とみき・あつし)

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