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宇宙科学の最前線

「我々の起源」の探索の果てへ 宇宙物理学研究系 宇宙航空プロジェクト研究員 松村知岳

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エンジン燃焼室壁の非破壊検査および余寿命評価

 エンジン燃焼室壁においてはクリープ疲労による損傷蓄積が避けられないことから、エンジン各燃焼サイクルにおける損傷度を非破壊的な手法により定量的に測定・評価することが求められる。クリープ疲労最終段階のミリメートルオーダーのクラックを検出してそのエンジンを使用停止にすれば、大きな事故を未然に防ぐことができる。それ以前の段階で、サブマイクロメートル以下の粒界ボイドの成長度を評価することができれば、そのエンジンのその後の使用可能サイクル数(余寿命)を評価することができる。

 クラックの非破壊検査については、エンジン燃焼室壁は冷却溝を有する複雑構造であり、冷却溝の形状エコーに埋もれている検査面裏側の傷エコーを検出することが課題となっている。現在、レーザ超音波可視化法による超音波探傷法および非線形超音波探傷法の適用を検討中である。特に後者の非線形超音波法は、大振幅正弦波バースト波により材料内の異常部を揺り動かしたときに発生する超音波波形のゆがみを高調波として検出し、超音波センサを走査しながらその振幅をマッピングすることにより異常部を可視化する。音響インピーダンス差を用いないので、冷却溝の形状エコーの影響がなく、エンジン燃焼室壁の非破壊検査へ適用できる見込みが大きい。

 余寿命評価については、サブマイクロメートル以下の粒界ボイドや微細クラックを検出する必要があるため、非常に難易度が高い。現在、陽電子消滅法や渦電流探傷法について、全国の大学の専門家と共同研究を始めたところである。

 この特殊なクリープ疲労現象の解明により、新型基幹ロケットエンジンの設計・評価において、損傷蓄積メカニズムを踏まえた上で、より信頼性の高いロケットエンジンを開発することが可能となった。そして、クラックの非破壊検査と損傷蓄積の余寿命評価は、現在のロケットエンジンの安全性・信頼性を高めるばかりでなく、将来の再使用型エンジン実現に必須なブレークスルーの一つであり、ぜひとも実現させるべく努力している。

(さとう・えいいち、ほり・しゅうすけ)

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