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宇宙科学の最前線

液体ホウ素は半導体だった 学際科学研究系 助教 岡田純平/学際科学研究系 教授 石川毅彦

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ホウ素について

 ホウ素(B)は周期律表の5番目に位置する元素です。ホウ素は、軽くて硬く、融点が高いという特徴を持ち、宇宙関係ではロケットに用いる耐熱材料として研究が進められています。ホウ素は採掘が容易なことから、古くから人類に用いられてきました。ガラス製品の母材となる酸化ホウ素(B2O3)、研磨剤として広く用いられている窒化ホウ素(BN)や炭化ホウ素(B4C)などのホウ化物は、工業的にも重要な材料として広く用いられています。ホウ素は、現在分かっているだけで6種類もの同素体(同じ元素から構成されるが、原子の配列や結合の仕方が違い、性質の異なる単体)を持ちます。この数は元素の中で硫黄(S)に次いで2番目に多く、今後も高温高圧などの極限環境下において新たな同素体が発見される可能性があり、物質探索が行われています。

 周期律表において、元素は大きく分けると金属と非金属(半導体、絶縁体)に分類されます(図1)。『理化学辞典』では金属について、「金属光沢を持ち、電気と熱をよく導き、固体状態では展性、延性に富む物質」と記述されています。これをミクロな立場から言い換えると、「金属とは価電子が物質中を自由に動き回っている物質である」と述べることができます。物質の性質は価電子の挙動によって決まります。電子は、電気だけでなく熱も運びます。電子が集団で相関を持つと磁性が発現することもあります。物質中で価電子がどの程度動き回ることができるかを知ることは、物質の性質を推定する際の重要な判断基準となるため、ほとんどの周期律表では元素が金属か非金属かを一目で判別できるように色分けされています。こうした分類は液体についても重要であり、安定に存在する元素のほとんどは、液体状態についても調べられています。


図1 元素の周期律表
図1 元素の周期律表 [画像クリックで拡大]


 ホウ素やケイ素(シリコン、Si)などは、金属と非金属の境界に位置します。こうした元素は、固体と液体で性質が大きく異なることが知られています。ケイ素、炭素(C)、ゲルマニウム(Ge)などは、固体では典型的な半導体ですが、溶けると金属になります。同様に、半導体であるホウ素も溶けると金属になると考えられてきました。しかし、ホウ素の融点は2077℃と非常に高い上に、ホウ素が溶けた液体(ホウ素融体)の反応性が高いことが実験を妨げ、実際にホウ素が溶けると金属になるのかどうかは物質科学における重要な未解決問題の一つでした。

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