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宇宙科学の最前線

液体ホウ素は半導体だった 学際科学研究系 助教 岡田純平/学際科学研究系 教授 石川毅彦

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静電浮遊法

 地上で液体を扱うには、液体を保持するための容器が必要です。容器を用いて液体を保持する場合、容器と液体の反応や容器壁からの不純物混入が問題となります。最近実用化された無容器プロセシング(浮遊法)は、容器の問題が生じない画期的な方法として注目されています。

 我々が開発してきた静電浮遊法(Electrostatic Levitation Technique)は、クーロン力を用いて試料を浮遊させます。図2(a)に示すように、帯電した試料に静電場をかけて重力と釣り合わせることによって、試料を2枚の電極間の任意の位置に浮遊させます。浮遊させた試料をレーザー加熱することにより溶解します。標準的な電極間距離は約10mm、試料サイズは約2mmです。電極間には10〜20kVの電圧を印加するので、放電を防ぐためチャンバー内は真空雰囲気(10−5Pa)に保たれています。2台のCCD位置検出器を用いて試料の3次元的な位置を測定します。測定した位置情報を用いてPID制御(フィードバック制御方法の一種)で電極間の電圧を調整し、試料位置を±10μm以内の精度で安定化させることが可能です。試料の温度は放射温度計を用いて測定します。静電浮遊法では、試料が帯電すれば金属・絶縁体を問わず浮遊させることができます。レーザーの出力を上げれば、タングステン(W、融点:3422℃)を溶かすことも可能です。図2(b)に示すように、ホウ素についても宙に保持して溶融することができます。


図2 静電浮遊法


図2 静電浮遊法
図2  静電浮遊法 [画像クリックで拡大]

X線コンプトン散乱実験

 静電浮遊法を用いることによりホウ素融体を保持することが可能になりましたが、次に問題になったのが、溶けたホウ素が金属かどうかをどのようにして調べるかということです。一般に、物質が金属かどうかを調べるためには、物質が電気をどの程度流すかを調べます(電気伝導測定)。そのためには、物質に2本以上の電極を取り付け、電極間の電圧と電流の関係を調べます。固体の場合、電極を取り付けて測定することは容易です。液体であっても、融点が高くなく反応性に乏しい場合は、電極を液体に差し込んで測定することができます。ところが、ホウ素融体と反応しない物質がこれまでのところ見つかっておらず、それに差し込む電極が存在しないために、ホウ素融体の電気伝導を測定することができません。

 そこで、X線を用いてホウ素融体中の電子の挙動を調べることにしました。電磁波であるX線は、電子と強く相互作用します。物質にX線を照射し、散乱されたX線の詳細を調べることにより、物質中の電子の挙動を知ることができます。実際の測定には非常に強いX線が必要であるため、大型放射光施設SPring-8を用いて、コンプトン散乱測定と呼ばれる実験手法を用いました。図3に実験の様子を示します。静電浮遊溶解装置一式を筑波宇宙センターから兵庫県佐用町のSPring-8へ輸送し、実験ビームライン内で装置を組み立てて実験を行いました。


図3 大型放射光施設SPring-8の高エネルギー非弾性散乱ビームライン(BL08W)に設置した静電浮遊溶解装置
図3  大型放射光施設SPring-8の高エネルギー非弾性散乱ビームライン(BL08W)に設置した静電浮遊溶解装置 [画像クリックで拡大]

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