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宇宙科学の最前線

MAXI(マキシ)が見張った5年間のX線宇宙 理化学研究所 MAXIチーム 専任研究員 三原建弘

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ブラックホール天体の発見

 2009年以降、世界では12個のブラックホール新星が発見されているが、MAXIは世界最多の6個を発見している。6個のうち半数は「数日で速く立ち上がって100日程度で指数関数的に減衰」という従来の光度曲線で、「ぎんが」衛星の時代にも出現し、詳しく研究された。残りの半数は初期の増光が頭打ちになっているもので、こちらはMAXIで初めて発見された(2010年3月号)。頭打ちはロッシュローブオーバーフロー型の降着でよく見られるものであるが、増光の原因とされている降着円盤の不安定性との関係はよく分かっていない。また、MAXIで発見されたものは、見掛けの明るさが暗いものが多い。降着円盤のスペクトル状態遷移時の明るさを使って距離を推定すると、銀河系の中心を超えて向こう側の銀河腕に出現したものも検出していたことが分かった(図2)。MAXIのリーチは、我々の銀河系の半分以上に達している。


図2 MAXIが発見したブラックホールの場所
図2  MAXIが発見したブラックホールの場所 [画像クリックで拡大]
銀河中心を超えた向こう側の腕まで観測されていることが分かる。


MAXI J0158-744の軟X線閃光

 2011年11月11日、MAXIは小マゼラン雲の東端に軟X線突発天体MAXI J0158-744を発見した(図3左)。この天体はノバサーチにより自動的に発見され、発生からわずか47秒後に全世界に自動速報された。「真っ赤で明るい」ことから、X線は4 keV以下であり、かに星雲ほどに明るいことが分かる。これは大問題である。小マゼラン雲はかに星雲の30倍も遠いので、実際は900倍も明るいのだ。太陽質量のエディントン限界光度を実に100倍も超えていた。このX線は、天文史上初めて捉えられた新星爆発直後の「火の玉期」の軟X線閃光であった。

 Swift衛星による追観測では新星爆発の終息期に観測される超軟X線源(SSS)期の軟X線放射が観測された(図3右)。これは理論モデルの想定を超える早さであり、白色矮星の質量が理論的な最大質量「チャンドラセカール限界(太陽質量の1.4倍)」に近いことを意味していた。1300秒後に行われたSSC装置の2回目のスキャンでは、エネルギースペクトル中に電子を2個だけ残すまでに高電離した強いネオン輝線を検出した。そもそも突発天体中のスペクトル中に元素輝線が観測されることは、まれである。この白色矮星はO-Ne-Mgでできた「重量級」で、白色矮星上のネオンが爆発とともに吹き飛んだようである。この常識に反する強いネオン輝線を説明するため、新しい理論モデルも提唱された。


図3 MAXI J0158-744の発見時の画像(左)と光度曲線(右)
図3  MAXI J0158-744の発見時の画像(左)と光度曲線(右) [画像クリックで拡大]
ガススリットカメラ(GSC)の1スキャンでまず発見され、その約200秒後と約1300秒後にX線CCDスリットカメラ(SSC)のスキャンで2回観測された。約12時間後からのSwift衛星による追観測では超軟X線源(SSS)期の軟X線放射が観測された。軟X線放射は約1ヶ月継続した。


思いもしなかった新現象

 可視光で輝く恒星と異なり、X線を放射する天体の多くは大きく変動し、突然現れたり消えたりする。これらのX線源の放射機構や変動の原因には今も謎が多い。軟X線閃光のほかにも我々が思いもしなかった新現象が観測された。

 一つは、銀河の中心にある巨大ブラックホールへの恒星の潮汐破壊現象である。それまで静かであった39億光年彼方にある銀河から、いきなり強いX線が放射され、突発的に数日間続いた。MAXIによる増光前からの連続観測とSwift衛星による増光後からの詳細観測を総合的に解析し、その銀河の中心にある巨大ブラックホールに恒星がばらばらになって飲み込まれた瞬間であったことが分かった(2011年10月号)。この成果はISSの第一級の成果に挙げられた。

 もう一つは低質量連星系におけるスーパーX線バーストである。従来の100秒程度続くX線バーストは、中性子星上で堆積物が起こす核融合爆発である。それに対し、スーパーバーストは数時間も続き、実に100倍ものエネルギーを放出する。なぜ2種類あるのか、何がどこで燃えているのか、正確なところは謎である。MAXIの観測時間スケールに合っているため、史上25例ほどのうち8例も観測された。同じ天体から2回以上観測されたものもあり、回帰周期や降着質量などの基本データを提供している。


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