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宇宙科学の最前線

宇宙空間における粒子加速問題と木星磁気圏 惑星分光観測衛星プロジェクト/宇宙航空プロジェクト 研究員 吉岡和夫

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見ることは信じること

 一般に、低重力環境での沸騰対流現象については、直管や平板など単純形状の流路や伝熱面を伴う場合、浮力の消失により伝熱面からの気泡離脱が進まないため、地上の場合に比べて熱伝達が抑制されることが知られています。しかし、複雑形状の伝熱面を伴う今回の場合、地上実験では、鉛直方向の高い位置に冷媒が行き渡らず、局所的に冷却が進まない部分が生じたのに対し、低重力環境の飛行実験では、行止部を含めて等方的な冷却が進み、熱伝達はむしろ促進されました。これは、重力の不在によって相対的に支配的となる表面張力の効果で気液界面の形状が決定され(絞り部における液糸形成と微粒化、循環流の遠心力による気泡合体の促進、固体表面のぬれなど)、壁面全体を覆う液膜が形成された結果であることが、可視化画像からはっきりと分かりました。

 実際、基幹ロケットがペイロードを分離した後の慣性飛行中に実施されたトリクル予冷の効果実証試験では、地上試験の場合と比べて、タービン側軸受の冷却が促進されるという結果が報告されています。ロケットの飛行中にターボポンプ軸受まわりの流動現象を可視化するのは現実的にはほぼ不可能ですが、今回の観測ロケット実験で得られた映像は、この冷却促進の仕組みについて一定の説明を与えたものといえます。

 同時に、表面張力が支配的となる条件での複雑流路における沸騰冷却現象を理解するためには、流動場を均質的な混相流と捉えるのではなく、本質的に非定常な自由表面流として捉えた上で、液面挙動と熱伝達特性を関連付ける視点が大切だとあらためて気付かされました。


むすび

 今回の実験は、大型液体燃料ロケットに関する技術課題の解決へ向けたアプローチとして、柔軟性に優れる小型固体燃料ロケットを活用したという点でも面白い試みです。この計画の実現に協力を頂いた関係各方面に対し、あらためて筆者らの深い謝意を表します。今後も、各種の基礎試験と数値解析を上手に組み合わせ、推進薬管理に関するさまざまな熱流動現象の理解と予測技術の確立を目指したいと考えています。

(ひめの・たけひろ、さらえ・わたる)

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