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宇宙科学の最前線

燃料電池を使ってCO2を除去する 長岡技術科学大学 大学院工学研究科 教授
宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系 客員教授
梅田 実

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次世代空気再生システム

 冒頭で述べたように、人間が活動する宇宙閉鎖空間では、CO2の除去が必須となり、現行は吸収によるCO2回収を行っています。しかし、長期的な視野に立てば、CO2は積極的にリサイクルされるべきでしょう。ここでは、まず水素─二酸化炭素燃料電池を用いる閉鎖空間用の次世代空気再生システムについて述べることにします。

 図3左上に、(2)式に基づくCO2還元と、その生成物であるH2Oの電気分解(3.1式と3.2式の逆反応)を組み合わせたシステムを示します。(2)式については、すでに図2で説明しているため詳細は省略しますが、生成物の一つであるH2Oを電気分解に回します。水電解は(3)式の逆の吸熱反応であり外部エネルギーを必要とするため、これを太陽光発電で賄います(図3右)。H2Oの電解で得られるO2は生命活動(呼吸)に、H2はCO2還元に再利用されます。ただし、(2)式を進行させるために不足するH2は、外部からのH2O補給に頼ることになります。CO2還元によるもう一つの生成物であるCH4は、システムの外へ排出します。

図3
図3 燃料電池を利用した次世代空気再生システム


 ここまで、CO2還元の主生成物がCH4である場合について述べてきましたが、ほかの還元体も副生されます。また、副生物の種類と量は、使用する電極触媒と燃料電池の運転条件によって異なります。そこで次に、生成物にメタノール(CH3OH)を想定した別のシステムを図3左下に示します。

 図3左下のCO2還元とH2O電解は、図3左上と同じですが、生成するCH3OHは別の燃料電池の燃料として使用できます。これは、直接メタノール形燃料電池といい、地上では確立された発電技術です。つまり、三つのプロセスを合わせることで新しい空気再生システムを構成できます。さらに、CH3OHを貯蔵に回すことで、太陽光発電ができない場合の予備発電としても活用が可能です。


宇宙用途に関する展望

 本技術の実用化に向けて、いくつかの重要課題を解決する必要があります。一般の化学反応を速やかに進行させるには、適切な触媒の利用が有効であることは指摘した通りです。電極上の反応(電極反応)については、電極が導電材なら何でもよいわけではなく、エネルギーロスを最小とし、また生成物の種類を選択的にコントロールできる電極触媒の開発を行う必要があります。

 一方で、長期的な宇宙滞在を視野に入れると、酸素循環に加えてさらに大きな炭素循環系を考える必要があります。ここまでの各反応に関与してきたCO2、CH4、CH3OH、H2O、H2、O2を中心として、有機合成や食料合成にまで目を向けることが肝要と思われます。太古の地球では、気体の大部分を占めていたCO2が、微生物によってO2と有機物に変換されました。それを人工的に、ほかの惑星や衛星でも行えるよう技術力を高めておくことは、決して無駄ではないでしょう。本研究の発展形が、遠い将来、何らかの形で宇宙開発の役に立つことを期待します。


むすび

 リーマンショック以降、先端研究は全体的に縮小を余儀なくされているようです。その中にあって、宇宙研との水素─二酸化炭素燃料電池の共同研究は、近未来から中長期のテーマとして夢のある技術開発になると期待されます。

 最後になりましたが、本研究は宇宙研との共同研究により現在も継続中です。また本研究の一部は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業ACT-Cにより実施しました。関係各位に深く感謝申し上げます。

(うめだ・みのる)

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