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宇宙科学の最前線

  衛星ツアーの「ミッションデザイン」 インターナショナルトップヤングフェロー Stefano Campagnola

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 衛星を周回することが最終目標となるミッションの場合、衛星ツアーの設計の難度がさらに上がります。この場合、宇宙機が主エンジンを逆噴射して減速し、衛星の重力に捕らえられたところでツアーが終わります。衛星表面全域を高解像度で観測するために、衛星を周回する軌道としては、低高度の極軌道がよく選ばれます。そして衛星ツアーの設計には、より多くの条件が課されます。例えば、宇宙機から見える衛星の日照条件が撮像や外線計測にとって最適になることを求められたり、衛星の周回軌道投入時や観測期間中に地球と交信できるように太陽や惑星で地球が隠されることがないように求められたりすることがあります。また、衛星を周回する軌道に投入する際に必要な燃料の量は、宇宙機が惑星の重力に捕らえられるためのそれよりも、いくぶん多くなります。これらの理由から、衛星を周回するミッションは格段に難しく、地球の月を除けば、いまだ実現されたことはありません。しかし最近になって、軌道工学の分野で、宇宙機を衛星の周回軌道に投入するために必要な燃料の量を大きく削減できるような新しい技術がいくつも開発されました。

三体問題モデルのもとで、衛星に対するエネルギーを効率よく削減するTisserand Leveraging法を用いることで、世界初の衛星周回ミッションとなるJUICE計画が可能になりました。また、土星の衛星エンケラドゥスのように、巨大惑星の深い重力井戸の中にある小さな衛星を周回するミッションは特に難しいのですが、それを可能にする技術(Non-tangent Leveraging法)も開発されました。

 これらの新しい技術は、提案中、あるいは飛行中の宇宙研のミッションでも使用されています。Tisserand Leveraging技術は、深宇宙探査技術実証機DESTINYの4回の月フライバイの設計に用いられました(図2)。DESTINYは、将来の深宇宙探査の鍵となる先端技術の実験を行う工学実験機として提案中のイプシロン級小型計画です。Non-tangent Leveraging法は、金星探査機「あかつき」のリカバリー軌道の設計で用いられました。この手法により、金星と再会合するまでの期間を1年以上短縮しつつ、必要となる燃料の量を削減することができました。


図2
図2 深宇宙探査技術実証機DESTINYの月フライバイフェーズ


(ステファノ・カンパニョーラ/日本語訳:宇宙飛翔工学研究系 准教授 川勝康弘)


※1 :惑星の軌道周期が数ヶ月〜数百年であるのに対し、典型的な衛星の軌道周期は数日〜1ヶ月である。
※2 :海王星探査ミッションは、資金面・技術面の課題のため、近い将来に実現できるわけではないが、今後の宇宙探査において優先すべき科学テーマを抽出し、研究と技術開発の焦点を絞ることを目的として、実施された。
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