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宇宙科学の最前線

フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡で探るフェルミ加速の物理 立教大学理学部物理学科 准教授 内山 泰伸

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高エネルギー陽子の直接的証拠

 ティコの超新星残骸の場合のように、X線観測の結果などを活用してガンマ線放射機構に強い制限を加えることもできますが、より直接的なのはガンマ線スペクトル形状からの放射機構の同定です。私たちはπ中間子崩壊ガンマ線が特徴的なスペクトル形状を示すことを利用して、フェルミ衛星によりπ中間子の崩壊ガンマ線を同定することに成功し、陽子加速の直接的な証拠を得ました。

 図3にガンマ線スペクトルの例を示します。数百メガ電子ボルト以下でガンマ線放射の強度が急激に下がっていますが、これがπ中間子崩壊ガンマ線に特徴的なスペクトル形状です。静止質量エネルギーが135メガ電子ボルトである中性π中間子の生成に関するハドロン物理を反映し、ガンマ線放射の環境などにほとんど依存しない普遍的なスペクトル構造です。私たちのガンマ線観測の結果から、陽子を主成分とする銀河宇宙線が超新星残骸の衝撃波において加速されていることの強い証拠を得ることができました。ただ今回は分子雲と相互作用している超新星残骸についての観測結果であり、今後はほかの種類の超新星残骸について同様の解析をすることが急務となっています。

図3
図3 超新星残骸W44のガンマ線スペクトル
データ点はフェルミ衛星で測定された超新星残骸W44のガンマ線スペクトル。破線はπ中間子崩壊ガンマ線のモデルで、点線は相対論的電子による制動放射のモデル。フェルミ衛星で得られた数百メガ電子ボルト以下のスペクトルデータにπ中間子崩壊ガンマ線に特有のスペクトル構造が見られ、これは高エネルギー陽子が生成したπ中間子の崩壊が主要なガンマ線放射機構であることを示す。


 超新星残骸に限らず、これまで天体高エネルギー粒子加速の現象は高エネルギー電子を通して観測されてきました。今回の私たちの成果は、初めて高エネルギー陽子を観測できるようになったという点で宇宙物理学上の重要な意義があると思っています。

ASTRO-Hへの展望

 これまで主にガンマ線観測による研究について述べましたが、衝撃波における粒子加速を研究する上でX線観測も重要な役割を果たしています。日本は次期X線天文衛星ASTRO-Hの開発を主導していて、筆者もチームメンバーとして参画しています。ASTRO-Hに搭載されるX線マイクロカロリーメータは、いわゆる非分散型分光器であり、超新星残骸のように広がった天体について今まで不可能であった超高分解能でのX線スペクトル解析を可能にします。熱プラズマのX線診断を通して、イオン温度や乱流の測定、マックスウェル分布からの逸脱の発見などの新たな成果が期待されています。ASTRO-Hは2015年の打上げが予定されていますが、超新星残骸に限らずさまざまなテーマにおいてブレークスルーをもたらすことでしょう。

(うちやま・やすのぶ)



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