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宇宙科学の最前線

ソーラーセイルによる深宇宙航行技術の実現 宇宙飛翔工学研究系 助教 津田 雄一

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 突き止めた後の私たちの行動は迅速でした。すぐさま運用システムに、新しい姿勢運動モデルを組み込み、軌道計画と姿勢制御計画を更新しました。

 もともと太陽光圧を効率よく受け止めるようにできたセイル。太陽光圧により生じるトルクを外乱と捉えず、利用する方がよいのです。渦巻き運動を積極的に利用した運用法により、従来想定の倍以上、燃料を長持ちさせることができました。今では、この研究はさらに進み、ソーラーセイル航行性能と、セイル表面の光学特性分布やしわの管理精度の関係を論じられるまでになっています(図3)。世界のどこよりも進んだ、ソーラーセイルのための「設計論」が構築できつつあるのです。

図3
図3 渦巻き運動から推定したセイル表面のしわ
左上:分離カメラによる実画像、左下:形状推定の3Dレタリング結果、
右:姿勢制御から推定したセイル形状(スピン軸方向は誇張して描画)


 イカロス以前の私たちの研究水準は、世界と同程度でしたが、現在の私たちは、ソーラーセイル機の開発経験とフライトデータから学んだ知見を世界中のどの研究チームよりも多く持っています。これを活かすことが、日本の深宇宙探査の優位性・独自性につながることと信じています。

おわりに

 イカロスは現在、燃料が枯渇したため太陽光圧任せの姿勢・軌道運動になっています。ハイゲインアンテナを持たないイカロスは、電波が極めて微弱なため、軌道決定に必要な測距ができない状態です。しかし、渦巻き運動のモデル化成功のおかげで、正確に姿勢と軌道を予測し、ソーラーセイル航行のデータを取り続けることができています。これからも、自らの光圧加速記録を日々塗り替えて、できる限り運用を続けたいと思います。

 イカロスは、技術実証を目的としたミッションでした。この成功により、我々は太陽から遠方の外惑星領域に乗り出す足掛かりを得ました。次に目指すは、木星圏・トロヤ群小惑星探査。イカロスで獲得した大面積膜セイル技術と高比推力イオンエンジンを組み合わせることにより、人類未踏の地への到達を目標に掲げ研究を続けています。

 今回受賞させていただいた第5回宇宙科学奨励賞は、もとより個人ではなし得なかったものであり、チームとしての研究開発活動の結果です。この場を借りて、同じ未来を共有し睡眠以外の多くの時間を共有したイカロスの開発チームのメンバー・研究会のメンバーに、感謝の意を表します。

(つだ・ゆういち)



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