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宇宙科学の最前線

次世代赤外線天文衛星SPICAが目指すもの 宇宙物理学研究系 教授 中川 貴雄

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銀河の誕生のドラマ

 SPICAが挑む最大の謎は、私たちの宇宙において、どのように銀河が生まれ進化してきたかを解明することです。

 「あかり」による研究から、宇宙における星形成史が現在から約90億年前までさかのぼって明らかになりました(図3)。その結果、驚くべきことに、約90億年前の宇宙では現在の20倍以上も星形成活動が活発であったことが分かりました。逆に言うと、約90億年前から現在までは、銀河・星の形成活動の活発度の「衰退期」にあることが分かったのです。

図3
図3 宇宙における星形成の歴史
「あかり」は、現在の宇宙が銀河・星形成の「衰退期」にあることを明らかにした。SPICAは、その前のどの時期に「勃興期」が存在したかを明らかにする。(後藤らの結果に加筆)


 「あかり」は、さらに銀河の種類も時間とともに変化しており、「超大光度赤外線銀河」と呼ばれる赤外線で非常に明るい銀河が90億年前には重要な役割を担っていることを示しました。超大光度赤外線銀河は赤外線で主に輝いているのですから、星形成の活発度の観測には赤外線の観測が必須です。すなわち、赤外線の観測なくしては、宇宙における真の星形成活動の歴史を知ることはできないのです。

 「あかり」は約90億年前から現在までは銀河・星の形成活動の衰退期にあることを明らかにしましたが、そのままの傾向が宇宙の始まりまで続くことは考えられません。宇宙の始まりには、星も銀河もありませんでした。したがって、宇宙が誕生した137億年前から、「あかり」の観測が到達している90億年前までの間のどこかの時期で、銀河・星の形成活動が始まり、時とともに活発になっていった「勃興期」があるはずです。この勃興期にこそ、現在の宇宙の姿が形づくられた重要な時期です。

 SPICAの第一の目的は、この銀河・星形成活動の勃興期が本当に存在したかどうかを明らかにすることにあります。SPICAは、「あかり」の観測をより初期の宇宙にまで発展させ、120億年前までの昔の宇宙における銀河・星形成活動を直接測定します。それにより、現在の宇宙の姿を形づくった勃興期に何が起きたかを明らかにします。

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