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宇宙科学の最前線

「超広角コンプトンカメラ」による放射性物質の可視化に向けた実証試験 宇宙物理学研究系 教授 高橋 忠幸 助教 渡辺 伸 ミッション機器系グループ 武田 伸一郎

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現地視察、試作機製作、現地での撮像試験

 東京電力から話があった後、どのようにアプローチしたらよいか模索しました。銀河の中心の超巨大ブラックホールからのガンマ線検出の感度を検討できても、地面に広がっているホットスポットがどのように観測されるのか見当もつきません。そして、現場はどのような空間線量なのか、実際にどのようなエネルギーのガンマ線が飛んでいるのかというような、検出器の性能を評価するのに必要な情報がありません。私たち自身が福島での状況を知らないため、そもそも私たちが開発しているコンプトンカメラが機能するのかどうか判断できなかったのです。そこで、関係諸機関の許可を得、ASTRO-H開発の合間を縫い、週末に、線量計や簡単なガンマ線検出器を持って現地に出掛けました。

 その結果、公開されているような強度の空間線量の場所があること、またそこでは、地上5cmで空間線量の10倍程度の線量を示すホットスポットが確かに存在することが分かりました。また、セシウム134やセシウム137から直接放出されるエネルギーの決まったガンマ線のほか、それらのガンマ線が周囲の地面や建物で散乱して低いエネルギーに変わって出てきたガンマ線が多くを占めることも観測されました。そして、私たちのコンプトンカメラであれば、放射性物質の源を見つけることが十分可能で、役に立てそうであることも分かったのです。

 ところが、残念ながら現地に持ち込んで実際に測定に供するだけの能力を持ったカメラそのものが存在しません。ASTRO-Hは、ちょうど詳細設計の段階に入っていて、そこで使われるコンプトンカメラの設計図はできていました。そして、部分的な試作も始まっていました。しかし、そのまま福島に持っていくのは技術的に難しかったので、福島での測定のために新たに専用機をつくる必要がありました。そこで、JAXAでは、宇宙に出て行う天文学の将来に向けた研究の加速と位置付け、その結果として宇宙開発の技術が国難に貢献するとの観点から研究費を用意し、試作機を製作することになりました。そして試作機ができ次第、現地撮像を行う方向で準備することとしました。大急ぎでチームを立ち上げ、昨年10月から組み上げに入り、今年の1月に試作機を完成させました(図1)。そして2月には、日本原子力研究開発機構(JAEA)と東京電力と共同で、福島県飯舘村での撮像試験を行うことができました(図2)。

図1
図1 超広角コンプトンカメラの試作機


図2
図2 福島県飯舘村での撮像試験
左は魚眼レンズを付けたカメラ、右は超広角コンプトンカメラで撮影した画像。セシウム134、137から直接放出される605、662、796、802キロ電子ボルトのガンマ線の強度(フラックス)分布。赤が強度が高く、青が強度が低い。


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