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宇宙科学の最前線

宇宙構造物の面形状を格子投影法で測る 室蘭工業大学 もの創造系領域 教授 樋口 健

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 そこで、2枚の基準面の外側に計測対象を配置する方法を考案した。これを外挿法と呼ぶことにし、従来の方法を内挿法と呼ぶことにする(図6)。外挿法を適用すれば基準面よりも大型で遠方にある物体を計測できる。図7は、航空機デルタ翼が荷重を受けて変形している様子を外挿法で計測した例である。このように、面形状計測の需要は宇宙に限らず地上においても多いと考えられる。

図6
図6 格子投影法の計測原理の内挿法と外挿法


 計測対象および基準面に格子を投影する代わりに、計測対象および基準面に格子模様を貼るか塗るか、あるいはそれ自身が格子状明暗を表示できるようにしておくことでも構わない。また、ステレオ視の原理と融合させて高精度化することも検討している。図8はカメラを2台用いて内挿法により半透明の凹面鏡の表面形状を測定した例である。この計測例では、基準面として液晶モニターを用いて明暗の縞模様を表示させた。

 形状算出に必要な計測対象物のデータは、固定位置カメラで撮影された1枚の画像であるが、正弦波格子の画素ごとの位相の決定精度を向上させるために同じ位置から撮影した複数枚数の画像を用いることができる。図5、7、8の計測例では複数枚数の画像による位相決定法を用いている。また、図5の例では、全空間テーブル化手法という精度向上と計測時間短縮の手法を併用している。図7の例では、外挿法に、計測対象物画素位置算出のための幾何算出法と精度向上のためのキャリブレーション法を組み合わせている。このように格子投影法にはいろいろな精度向上策の併用が可能であり、現在も引き続いて精度向上策を検討している。

図7
図7 室蘭工業大学で開発中の小型無人超音速実験機の主翼変形量計測


図8
図8 2台のカメラを用いた格子投影法によるφ300mm凹面鏡の計測例


 原理的には計測対象物の1枚の画像で表面格子模様の位相を決定できるため、変形速度や表面の光学的性状や計測精度要求次第では連続的な形状変化にも対応可能である。例えば、展開途中の形状計測や、展開後に波打っていたりしわやたるみが動いていたりするような表面の動的形状計測にも適用できると考えている。

 基準面とカメラやプロジェクターの位置関係を保持できれば、地上で基準面撮影をしておけば軌道上に基準面を運ぶ必要はない。実は地上実験においても、いったん基準面を撮影しておき、その後は基準面を取り去り計測対象に置き換えて計測している。上記の実験では市販の安価な液晶プロジェクターを用いているが、軌道上では光源とスリットから成るプロジェクターを用いるか、またはあらかじめ計測したい部分に縞模様を描いておくなどすることになると思われる。また、用途を軌道上に限る必要はなく、地上でも月・惑星上でも使える手法であり、むしろ宇宙展開構造物の事前地上試験に安価で簡便な手法を提供できるものと考えている。今後とも精度向上策の検討を続けつつ、構成が単純でコンパクトである利点を生かして、格子投影法の一体化された装置開発が行われることを期待している。

(ひぐち・けん)



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