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宇宙科学の最前線

宇宙構造物の面形状を格子投影法で測る 室蘭工業大学 もの創造系領域 教授 樋口 健

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 また、軌道上展開後の構造物の形状は定性的には搭載カメラや分離カメラの画像で観察できる(図2、3)が、高機能化や信頼性向上のためには軌道上で起きている現象を理解しなければならない。そのためには定量的な計測が不可欠であり、表面形状のその場計測手段が必要になってきている。今後の大型パラボラアンテナや電波望遠鏡や集光鏡の反射面のように表面形状に高精度が要求されるものではなおさらであり、軌道上で表面形状制御をしたい場合には軌道上表面形状計測は必須となる。

 表面形状計測には、地上では複数カメラ映像によるステレオ視やレーザー変位計を用いた計測法が広く用いられている。観察したい表面にターゲットを用いる場合は、点としての距離情報や座標情報を得ている。ターゲットを貼った位置の動的追尾も行われている。レーザー変位計をスキャンして表面形状を測る方法もあるが、面積が大きくなるほど計測に時間がかかる。これらの問題に対処する方法として、計測対象を面のまま短時間に計測できる格子投影法に着目している。

 格子投影法は、計測対象に正弦波状明暗の格子をプロジェクター(投光器)から投影し、それをデジタルカメラで撮影し、画像の画素ごとの輝度値を用いて物体の形状を画素ごとに求める手法である。実験室では市販の液晶プロジェクターを用いている。格子投影法の特徴は、撮影した画像の画素ごとの座標値の集合として面形状を得られること、撮影枚数が少ないこと、画像を撮影してから計測結果の取得までの解析時間が短いこと、測定機器の構成が簡単でコンパクトであり将来衛星搭載を狙うことも可能と考えられること、などである。格子投影法は、新しいが既存の計測手法であり(図4)、実験室での理想的な計測条件では数マイクロメートルの精度まで表面形状計測ができるといわれている。

図4
図4 格子投影法による石こう像の計測例(和歌山大学藤垣元治准教授提供)


 本手法を、図1の金属メッシュで構成されるパラボラアンテナ反射鏡地上試験モデルの形状計測に用いた。宇宙構造物の面構成要素としてよく用いられる金属メッシュは、繊維の編み物でできているため空隙率が大きい。つまり可視光の透過率が大きく、しかも金属光沢の乱反射があるため、計測対象としては悪条件である。しかし、スキャンしたレーザー変位計と同程度の精度で全体を1枚の面として計測できることが示された(図5)。

図5
図5 衛星搭載メッシュアンテナの地上試験用φ1500mm縮小モデルの計測例

 格子投影法は、まず2枚の基準面にプロジェクターから格子状の縞模様を投影し、基準面間に仮想的な座標を構成しておく。2枚の基準面は、実際には1枚の基準面を移動させて格子を投影することでも構わない。その基準面間に計測対象物を配置し、同様に格子を投影する。計測対象物の表面形状の凹凸に応じて、投影された正弦波状格子がゆがんだ画像、つまり画素ごとに位相が変化した画像が得られる。2枚の基準面に投影された正弦波明暗格子の位相を基準にして計測対象物表面での位相変化を内挿する原理で、計測対象物の画素ごとに座標値が算出され、表面形状が得られる。これまでの格子投影法は、このように2枚の基準面の間に計測対象を配置して測定するため、基準面より大きい計測対象を測ることはできない。また、遠方の計測対象を測るには基準面も遠方に配置する必要がある。つまり、大型宇宙構造物を軌道上で計測するためには、同程度の大きさの基準面が必要ということになる。

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