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宇宙科学の最前線

BepiColombo MMOの熱制御系 宇宙航行システム研究系 准教授 小川 博之

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MMOの熱設計検証

 外部に露出する観測機器やバス機器、熱制御材料の開発・試験・検証のために、MMO開発の初期段階で「内惑星熱真空環境シミュレーター」(図3)を整備しました。内惑星熱真空環境シミュレーターは内径1m、奥行き1mの液体窒素冷却シュラウドを備えた真空容器に、模擬太陽光を直径250mmで入射できる設備で、模擬太陽光は地球環境から水星環境までの強度を模擬できます。これを用いて材料レベル、コンポーネントレベルの試験検証を行いました。

図3
図3 内惑星熱真空環境シミュレーター


 システムレベルの熱設計検証は、(1)筑波13mφスペースチャンバ(2009年11月)、(2)相模原4mφスペースチャンバ(2010年2月)、(3)ESAのESTEC(欧州宇宙研究技術センター)Large Space Simulator(LSS、2010年10月)を用いて行いました。水星環境では太陽光熱入力の影響を正確に把握する必要があり、試験に用いた熱モデルはフライトモデルと熱的に同等のもの(特に形状)を使用しました。(1)では、地球近傍の強度ではあるもののきれいな平行の太陽光が模擬できるため、太陽光の影響を評価し、(2)では、温度レベルが模擬できて境界条件をきれいに与えることができるため、温度を予測するための熱数学モデル検証のためのデータを取得しました。(3)では、集束光ではあるものの水星における太陽光強度を模擬できるため、MMOの高温耐性を評価しました。

 材料・コンポーネントレベルの試験とシステムレベルの試験(1)(2)(3)を併せることで、熱設計と熱数学モデルの検証を行いました。2010年11月にはMOSIFとMMOを組み合わせた熱試験をESTECのLSSでESAと共同で行い、水星到着までの形態での熱設計・熱数学モデル検証を行っています。

おわりに

 試験によって検証された熱設計・熱数学モデルによりフライト予測をすると、水星周回軌道上で太陽に近い期間での許容範囲内の運用制限はやむを得ないものの、熱的に成立する(衛星が運用可能)ことが示されています。

 MMOはフライトモデルの総合試験を経て2014年に打ち上げられますが、熱設計が正しかったことを実証できるのはMMOが水星で分離される2020年です。

(おがわ・ひろゆき)

参考:
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