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宇宙科学の最前線

BepiColombo MMOの熱制御系 宇宙航行システム研究系 准教授 小川 博之

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MMOの熱環境と熱設計

 水星と太陽との距離は、近日点で0.3AU(1AU[天文単位]は地球と太陽の平均距離で約1.5億km)、遠日点で0.47AUです。水星が近日点にあるときには太陽光強度が地球近傍の11倍近くになります。また、水星自体も太陽光に加熱されることによって、水星の太陽直下点では最高430℃に達します。水星には大気がなく自転周期も長いため、地球の月と同様、表面の温度が一様ではなく、太陽直下点から離れるに従って太陽と地面の角度の関係で表面温度が下がっていき、日陰ではマイナス180℃以下となります。水星探査機は、このような強い太陽光と水星からの強い赤外放射による厳しい環境下でも耐えられるように設計されています。

 MMOは、スピン軸が太陽光に対してほぼ90度のスピン安定衛星であることが、搭載される観測機器から要求されています。これにより衛星の形状は軸対称と決まります。側面パネルに太陽電池を搭載し、高利得アンテナをスピン軸にデスパン機構(アンテナをスピン方向とは逆に回転させ常に地球方向に向ける機構)を付けて搭載、放熱面は太陽光が直射しない南北面とするなど、衛星の概念も決まってきます。この概念に基づき、いろいろな形状や熱制御方針のトレードオフスタディを行い、衛星の形状が詳細化されていきました。

 図2にMMOの水星周回軌道上の予想図を示します。水星探査機の最も望ましい形状は、熱的には太陽光受光面積が最小限で放熱面を最大限取ることができる、平べったい円柱です。MMOも当初は円柱だったのですが、宇宙研の磁気圏観測衛星GEOTAILの製造上の苦い経験(円柱側面に太陽電池を施工するのが非常に困難)により、側面パネルは平面とされ、8角柱形状となりました。大きさは、電力と重量との兼ね合いで直径1.8mとなりました。

図2
図2 BepiColombo 水星磁気圏探査機(MMO)の想像図


 側面パネルは太陽光を直接受けるので、なるべく太陽光を吸収せず、かつ放熱効率の高いガラス製の鏡(Optical Solar Reflector:OSR)で覆いますが、それでも高温(160℃以上)になります。そのため、側面パネルから断熱した南北面の構造(デッキと呼ばれている)にバス機器や観測機器が搭載され、観測機器センサは側面パネルから顔を出す形式になりました。多層断熱材(Multi Layer Insulation:MLI)やセンサ曝露部に設けたサンシールドにより、側面パネルおよび観測機器センサから太陽光エネルギーを極力デッキに入れないような工夫がされています。

 側面パネルには太陽電池が搭載されますが、太陽電池は太陽光エネルギーを吸収して高温になります。そのため、太陽電池の列の中にOSRを適度にちりばめて単位面積当たりの太陽光吸収率を下げるほか、高利得アンテナが搭載される北面方向に側面パネルを延長し、延長部分に太陽電池を貼ることで、側面パネルの裏面(スピン軸側)から宇宙空間へ放熱して太陽電池の温度を下げています。しかし、それでも230℃に達します。

 北面デッキには、高利得アンテナからの太陽光の反射光や赤外放射、太陽電池裏面からの赤外放射が入射するために、搭載機器の放熱面として適当ではありません。したがって北面デッキ外表面はMLIで覆い、これらの熱入力を遮断しました。搭載機器の放熱面は南面デッキのみです。南面デッキに太陽光が直射しないように、側面パネルを延長しています。また、熱い側面パネルの赤外放射を南面デッキの放熱面に入れないよう、側面パネルの裏側(スピン軸側)は表側と断熱し、かつ赤外放射率の小さい特性を表面に持たせています。南面デッキ外表面はOSRで覆われています。

 高利得アンテナは、従来のパラボラ型だとどうしても集光部分が生じるということで、MMOでは平面型のアンテナを採用しています。アンテナ表面にヘリカルアレイと呼ばれるものが並んでいるため、アンテナ表面にOSRを施工できません。また高利得アンテナはスピンしないため、場合によっては太陽を直視し非常に高温(350℃以上)になり得ます。そのため、高温に耐える導電性白色塗料を特別に開発しました。外表面に電位分布が極力生じないように外表面は導電性の材料を用いることがMMOの観測機器から要求されているので、観測機器用のサンシールドなどアンテナ以外にもこの白色塗料が用いられています。OSRおよび太陽電池のカバーガラスに関しては導電性コーティングがなされており、北面デッキ外表面のMLIの最外層には導電性のあるゲルマニウム蒸着ブラックポリイミドフィルムを使用しています。

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