宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > 宇宙科学の最前線 > MAXIが見たブラックホール連星

宇宙科学の最前線

MAXIが見たブラックホール連星 東京工業大学大学院 理工学研究科 教授 河合 誠之

│3│

XTE J1752-223

 ブラックホール連星XTE J1752-223は、2009年10月に米国のX線天文衛星RXTEによる銀河中心領域の定期パトロール観測で発見され、ATEL(Astronomer's Telegram、突発天体現象速報メーリングリスト)に報告されました。このX線新星の出現はMAXIでも同時に検出され、翌年4月に消えるまで活動の始終を観測することができました。図3に約半年間にわたるこの天体のX線強度とスペクトルの硬さ(エネルギーの高いX線と低いX線の強度比、可視光の「色」に相当する)の変化を示します。

図3
図3 ブラックホール連星XTE J1752-223のX線強度の変化と、各観測時期に対応するX線カラー画像
出現してから3ヶ月間の「ハード状態」の後に「ソフト状態」に遷移した(上のX線像では青から赤へと色が変化)。これは、高いエネルギーのX線を放出する希薄で膨れたコロナ状態の高温のガスが、低いエネルギーのX線を放出するやや低温でブラックホール近傍まで伸びる降着円盤に変化したことを示している。


 活動の前半は「ハード状態」にあり、しかも強度が2段階で変化しています。この状態は、流れ込むガスの量が比較的少なく、主にブラックホール近傍の膨れて希薄な高温ガスからX線が放射されている状態と考えられます。その後スペクトルは「ソフト状態」へと急変してX線強度はピークに達し、約2ヶ月間直線的に減光しました。この状態ではブラックホール近傍まで伸びた低温の円盤が形成されていると考えられます。その後、再び「ハード状態」へ遷移した後に消えました。

 XTE J1752-223の活動で注目すべき点が3つあります。
(1)X線新星が出現後に3ヶ月もハード状態にあることは珍しく、「草食系ブラックホールの発見」としてプレス発表も行いました。「ハード状態」をつくり出す物質流入の仕組みの解明において新しいデータとなりました。
(2)ハードからソフトへの状態変化に伴い、電波観測でジェットの放出が観測されました。宇宙のさまざまな天体に見られるジェットの生成機構の謎の解明に役立つデータです。
(3)ソフト状態でのスペクトルを解析すると、強度はどんどん低下しているのに降着円盤の最内縁半径はほぼ一定で、銀河系の中心付近にあると仮定するとその半径は約100kmとなります。この半径に対応する中心天体質量は太陽の約10倍なので、その正体がブラックホールであるという推測を裏付けます。


MAXI J1659-152

 対照的に、出現後にすぐに状態遷移を見せたブラックホール連星がMAXI J1659-152です。2010年9月25日にSwift衛星とほぼ同時にMAXIが発見しました。Swiftは異常に長いガンマ線バースト(GRB)として速報をしてGRB 100925Aという名前を付けていたのですが、MAXIの観測データをさかのぼって調べると、Swiftに検出される前日からX線増光が始まっていたことが分かりました。

 この天体は可視光でも検出され、アマチュアを含め世界中で観測されました。また、MAXIによる報告を受けて、RXTEと「すざく」による追跡観測も行われ、ブラックホール連星の性質を持つことが明らかにされました。発見直後のMAXIとSwiftによるデータは「ハード状態」のスペクトルを示していますが、3日後にRXTEと「すざく」が観測したときには、すでに降着円盤起源と思われるソフト成分が卓越する状態に変化していました。興味深いことに、RXTEによって2.4時間ごとにX線光度がへこむことが観測され、さらに同じ周期で可視光でも変光しており、2.4時間は連星系の公転周期を示すものと考えられます。これほど短い公転周期を持つブラックホール連星は、これまで知られていません。X線が弱くなるとともに可視光でも暗くなっていきましたが、太陽が近づいてきたため、伴星の詳細観測は数ヶ月お預けとなりました。今後、静穏期におけるX線や可視光の詳細観測によって、この連星系の距離や伴星の種別が分かってくれば、このブラックホールの性質が明らかになると期待されます。


ほかのX線源と今後の展望

 MAXIによって、今回紹介した以外にもX線観測史上最大の活動銀河核フレアの検出、新しい連星X線パルサーMAXI J1409-619の発見、多数の大規模恒星フレアの検出など、さまざまな興味深い観測成果が得られています。ISSの運用が続く限り、絶えず激しく変化するX線の空をMAXIで監視し続けるつもりです。

 なおMAXIチームメンバーは、JAXA、理化学研究所、東京工業大学、青山学院大学、大阪大学、日本大学、京都大学、中央大学、宮崎大学の研究者・大学院生です。

(かわい・のぶゆき)



│3│