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宇宙科学の最前線

MAXIが見たブラックホール連星 東京工業大学大学院 理工学研究科 教授 河合 誠之

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ブラックホール連星

 銀河面に沿って並ぶ明るいX線源のいくつかは、ブラックホールと普通の恒星の連星です(図2)。最も有名なブラックホール連星であるはくちょう座X-1は、常に明るくX線で輝いていますが、放射スペクトルが極端な二つの状態の間で変化します。多くの場合は「ハード状態」と呼ばれる、高エネルギーまでX線光子が分布しているべき乗型スペクトルを示します。ところが時折、「ソフト状態」と呼ばれる、低エネルギー光子が支配的な熱的なスペクトルに移ります。それぞれ、ブラックホールのまわりのガスが高温で希薄に広がった「コロナ」になっている状態と、ガス密度が高く厚みがない(レコード盤のような)降着円盤を形成している状態に対応すると考えられています。降着円盤の最内縁半径(レコードの穴に当たる)は、一般相対論の効果によってシュバルツシルト半径(ブラックホールの重力圏を示す距離で、ブラックホール質量に比例する)の3倍以下になることはありません。ソフト状態のX線強度と放射スペクトルを調べれば、ブラックホールの質量の手掛かりが得られるわけです。はくちょう座X-1の場合には、連星系の重心を回る伴星の運動を解析した結果、X線源の質量が太陽質量の10倍程度ありながら可視光をほとんど出さない(普通の恒星より圧倒的に小さい)天体であることが示されました。恒星の理論を適用すると、そのような天体は必ずブラックホールでなくてはなりません。

図2
図2 ブラックホール連星の想像図
普通の恒星(右側の赤い星)から流れ出したガスが、ブラックホールのまわりに円盤をつくり、X線で輝いている。?NASA


 今ではほかにも20個余りの天体がブラックホール連星であると思われていますが、そのすべてに対してはくちょう座X-1のように確実に質量が測られているわけではありません。しかし、スペクトルが極端に異なる状態間の変化など共通の性質を示すことなど、ブラックホールに落ち込むガスの挙動から、そう判定されるわけです。以下、このような候補天体を含めてブラックホール連星と呼ぶことにします。

 多くのブラックホール連星は、ほとんどの期間はX線を放射せず、数ヶ月間ほど爆発的増光(アウトバースト)する「X線新星」です。数年ごとに活動するものもあれば、40年のX線天文学観測史上1回しか活動が記録されていないものもあります。過去20年間を平均すると、およそ1年に1個の割合で新しいブラックホール連星の候補が出現しています。MAXIは、今までの全天監視装置の中で最も高い感度を持つために、X線新星の出現を直ちに検知して全世界に通報し、活動初期からの詳細観測に結び付けます。また、数ヶ月にわたるX線新星のアウトバーストを始めから終わりまで追い続けて、強度とスペクトルの変化を調べることができるのも、MAXIの特徴です。


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