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宇宙科学の最前線

宇宙用半導体集積回路の開発 宇宙・民生共使用戦略 宇宙探査工学研究系 准教授 廣瀬 和之 宇宙情報・エネルギー工学研究系 教授 齋藤 宏文

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最先端の宇宙用LSI、システム・オン・チップ完成

 そのような活動の中で、私たちが完成させたセル・ライブラリーとマルチ・ジョブラン方式を利用して、三菱重工は最先端の宇宙用LSIであるシステム・オン・チップ(SoC)を完成させました。そのプロトタイプを2007年に試作し、引き続き放射線試験や改良設計を実施して、今年その完成を迎えたのです。

 現在海外から調達できる極めて高額な宇宙用MPUとして、図1に示すように処理速度が私たちの目標仕様を満たす100MIPSを超すものがあります。しかし、消費電力は数Wと、目標仕様を満たすものではありません。私たちが開発した世界標準の耐放射線性を有するSoCは、チップサイズが15mm×10mmと小さく、メモリーとスペース・ワイヤー・インターフェースを1チップに実装した100MIPS処理速度の32bit MPUと機能性能面でも優れているばかりでなく、消費電力が1W以下と低消費電力です。また民生市場においても競争可能な低価格化を実現させたものであり、世界トップレベルの共使用できるプロセッサーの純国産化に成功したといえます。本SoCは、次期天文衛星への搭載が計画されていますが、さらに三菱重工が量産する民生機器にリプレースして使用されることが検討されています。

 現在、私たちはここでご紹介した宇宙用LSIの研究開発に続いて、マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム(MEMS)という最先端の微細化技術を利用して、LSIを超小型実装する研究開発も開始しました(図3)。これが成功すれば、高機能な宇宙用LSIを製造して、超小型化して衛星に搭載することが可能になります。


図3
図3 宇宙研の宇宙用半導体集積回路の研究


 本プロジェクトは、構想の立上げから11年目に結実しました。その間の研究開発の成果は、半導体の放射線照射効果の分野で世界最高峰のアメリカの学術雑誌(IEEE)に19件の論文として掲載されました。また、産業技術総合研究所で昨年度調査された、「我が国の産学連携研究開発の成功事例」のベスト10にランクされました。そして本年は、栄えあるJAXA業績賞を受賞いたしました。本プロジェクトの立上げ当時は、科学衛星に必要な宇宙用MPUが宇宙研で本当にできると信じる人がほとんどいない中で、私たちの研究の価値を認めてくださった宇宙研の先生方と、その後絶大なご支援を続けていただいた予算管理・契約・経理・広報をはじめとする宇宙研の事務方の皆さまに、心からお礼申し上げます。本当にありがとうございました。

(ひろせ・かずゆき/さいとう・ひろぶみ)



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