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宇宙科学の最前線

イトカワの砂 月・惑星探査プログラムグループ 開発室 参与 宇宙科学研究所 基盤技術グループ 参与 藤村 彰夫

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はじめに

 2010年6月に小惑星探査機「はやぶさ」が帰還しました。11月になって持ち帰った岩石質の微粒子が小惑星イトカワ由来と分かり、大変に注目され、また意気も上がりました。これはサンプルキャッチャーと呼ばれる帰還したサンプル容器の内側を特殊なヘラで触って集めた約3300個のうち、人工物(主としてアルミ片)を除いた約1500個の岩石質極微小粒子(大部分が10μm[マイクロメートル、1μm=1mmの1000分の1]以下)の組成を調べて分かったことです(図1におおよその鉱物組成比を示す)。ヘラで集めたものは、1粒が1ng(ナノグラム、1ng=1gの10億分の1)以下と非常に小さな粒子なので、統計的な特徴を調べるには適していても、それぞれについて詳細に調べるには小さ過ぎるきらいがあります。そのため、マニピュレータという特殊な装置を使ってもう少し大きな粒子(数十μm)をサンプルキャッチャーから回収し、それらを使った初期分析が始まりました。

図1
図1 サンプルキャッチャーから採取された岩石質極微小粒子の鉱物組成比


 初期分析は「はやぶさ」サンプルの特徴の記載を目的とするので、その内容は打上げ前から議論され、担当の研究者や機関は複数回の国際的な事前評価を経て日本国内から選定されています。国内で実施される初期分析には外国の研究者も参加しています。初期分析用サンプルの配布は2011年1月下旬から開始され、分析結果の一部は3月の月惑星科学会議(アメリカ・ヒューストン)と5月の日本地球惑星科学連合大会(幕張)で報告されました。分析は、現在も実施中です。

 現在までに、粒子の表面や内部の詳細構造情報、元素組成や鉱物組成からの情報、希ガスや酸素などの同位体組成からの情報、さらに宇宙風化など地球外物質特有の特徴などから、サンプルが地球外物質であることのさらなる確証が得られ、 S型小惑星イトカワ表面で起こっている現象、また普通コンドライト隕石との関係などが明らかになりつつあります。まだ時期は未定ですが、NASAへのサンプルの配分や国際的に公募研究を募集するなど、さらなる分析へ向け、準備をしています。

 以下に、これらの分析に供せられる固体微粒子の回収と、それに伴う状況について述べます。


サンプル微粒子の回収

 サンプルの状況は当初予想していたより量が少なく、またサイズは極めて微細なものでした。サンプルキャッチャーの蓋を開け、代わりに透明な合成石英製蓋を取り付け、それを透過して見た内部の様子を、図2に示します。これはキャッチャー内に2部屋あるうちA室と呼ばれる側で、下側にB室があります。A室にもB室にも肉眼ではサンプルらしきものは認められませんでした。このサンプルキャッチャーの内部を顕微鏡で観察しつつ、クリーンチャンバーのグローブを介しての回収作業が行われます。

図2
図2 サンプルキャッチャーA室内の状況
裸眼レベルで見えるものは、ほぼない。B室も同様。微小粒子ハンドリング用の静電制御マニピュレータによる直接回収とテフロン製ヘラによる間接採取を実施。開口部直径48mm。


 肉眼で識別できる粒子がほとんどない状況であるため、ピンセットでサンプルをつまむなどのすぐ思い付く方法は使えません。また微少量の微細粒子であるため、キャッチャー容器に静電気で貼り付いて簡単には取り出せません。サンプル粒子に接触することによる汚染を減らし、力学的に破損することなく、また、紛失することが極力ないように扱う必要があります。サンプル粒子は地球大気などによる汚染を防止するため、清浄な窒素で満たされたクリーンチャンバー内で回収されます。

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