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宇宙科学の最前線

自然が織りなす光のショー惑星オーロラの魅力 Sarah V. Badman JAXAインターナショナルトップヤングフェロー 宇宙プラズマ研究系

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 ハッブルにより撮像されたオーロラ画像には複数の要因で発生するものが含まれており、画像を解析することで多くを学ぶことができます(図2)。まず、メイン・オーヴァルと呼ばれるものが必ずしもオーヴァル(環)状ではなく、ある経度に局在する磁気異常によって「そら豆」形状にゆがんでおり、そのために極まわりの非軸対称性が生まれていることが分かります。メイン・オーヴァルの外側には、イオ・エウロパ・ガニメデというガリレオ衛星の「足跡」が見えます。これらの衛星の位置から出発して磁力線に沿ってたどってくると、やがて木星表面の足元の位置に達しますが、そこに明るいオーロラ・スポットが光っているのです。さらに、このスポットから後ろ側へとオーロラが続いていることも見て取れます。メイン・オーヴァルの内側には、原因が未解明の極域発光が見られます。これは位置・強さとも大きな時間変動を示すことが知られ、その原因として太陽風との相互作用が提唱されていますが、まだ解決していません。この問題は将来、木星ミッションが解くべき課題の一つとなっています。

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図2 ハッブル宇宙望遠鏡で撮像された木星北極の紫外線オーロラ(写真提供:NASA)


土星:氷と光のリング

 木星よりさらに遠くには、太陽系で二番目に大きい惑星、土星があります。土星の太陽からの距離は地球のそれの9倍で、1土星年は30地球年の長さになります。土星は木星同様にガス惑星ですが、その特徴は何といってもそのリングにあります。リングは、小さなもので塵程度、大きなものでは車サイズにもなる氷の集まりです。土星には60個以上もの衛星もあります。それらが土星周囲の宇宙空間に浮かんでいることは、木星系におけるイオほどの強烈な効果ではないだろうにしても、土星オーロラの主要因ともなっていることを期待させます。ところが、ハッブルや土星探査機カッシーニによって取得されたオーロラ画像の解析結果は、土星オーロラが、地球での場合と同様に、土星磁場と太陽風との相互作用に起源があることを示しています。この事実は、土星オーロラの強度や位置が太陽風条件に応じて変化することから見いだされました(図3)。土星周回軌道に投入されてから6年が経過し土星周辺の宇宙空間のさまざまな領域を探査してきたカッシーニは、土星近傍や土星から離れた磁気ディスクにおける磁場・粒子の詳細なデータを取得してきました。データ解析はまだまだ進行中であり、ここから木星系で見られるような衛星相互作用タイプのオーロラ、例えば衛星エンセラダスの足元のオーロラ・スポットといった発見が、今後ともなされるのでしょう。

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図3 三つの異なる時刻においてハッブル宇宙望遠鏡が取得した土星オーロラ画像
太陽風の変動に対応したオーロラの時間変化が見える。紫外線によるオーロラ画像を可視光による土星本体の画像に重ねてある。(写真提供:NASA)


 それぞれに個性を持った太陽系の惑星たちは、まだまだ謎に包まれています。オーロラ研究は、その画像の美しさもさることながら、それぞれの世界において展開する複雑で興味深いダイナミクスを理解していく上で、大変強力な手法です。今、系外惑星への興味は高まっており、科学者たちは、より多くの系外惑星を観測するための科学衛星を検討しています。その一方で、すぐそこにある、私たちのまわりの宇宙においてもまだまだ発見されるべきことが眠っていることを忘れてはいけないでしょう。

(サラ・V. バッドマン/日本語訳:藤本正樹)



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