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宇宙科学の最前線

宇宙最果ての大爆発をとらえる フェルミ衛星で迫るガンマ線バーストの謎 高エネルギー天文学研究系 宇宙航空プロジェクト研究員 大野雅功

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「目が離せない」ガンマ線バースト観測

 ガンマ線バーストにおいて、高エネルギーガンマ線と同じぐらい重要な情報が、ガンマ線バーストの距離です。我々はガンマ線バーストの距離を決定するために「残光」というものを利用します。近年の観測により、ガンマ線バーストは、X線や可視光、電波などのガンマ線より低いエネルギーの光では1日以上輝いていることが明らかになりました。この「残光」を観測し、付随する銀河を明らかにすることで、その距離の測定が可能になります。残光をできるだけ明るいうちに観測すれば、距離を決定できる可能性も高まるので、ガンマ線バーストの検出情報をできるだけ早くほかのX線や可視光の望遠鏡に伝える必要があります。

 そのために我々は、日米欧3局当番体制でフェルミ衛星のデータを常時監視しています。ガンマ線バーストが検出されデータを受信すると、すぐにデータ解析し、フェルミ衛星LATで決めた位置情報などを全世界の研究者に公開します。日本からは宇宙研、東工大、広島大が当番に参加しています。

 フェルミ衛星は2010年1月現在、14のガンマ線バーストから1億電子ボルト以上の高エネルギーガンマ線を検出しました。そのうち4例は、日本人が筆頭解析者として結果を報告しました。フェルミ衛星LATの優れた位置決定精度と我々の迅速な解析が功を奏し、14例中7例で距離の決定に成功しました。この検出数はすでにコンプトン衛星イグレット検出器のそれを上回っており、『ネイチャー』誌や『サイエンス』誌などに9編の論文(査読中含む)を発表するなど、フェルミ衛星はわずか1年余りの観測で予想以上の成果を挙げています。

 ここからはフェルミ衛星でとらえたガンマ線バーストの一つ、GRB 090510について少し詳しく紹介していきます。


フェルミ衛星で見たGRB 090510

 2009年5月10日、日本時間午前9時23分、フェルミ衛星がガンマ線バーストGRB 090510を検出したとの速報が舞い込んできました。ちょうど当番についていた日本グループが迅速に解析して検出情報を世界に公開したこともあって、距離が決定でき、このガンマ線バーストは73億光年彼方で発生したことが明らかとなりました。図2は、GRB 090510の光度の時間変化をいくつかのエネルギー帯域で作成したものを、低いエネルギー順に上から表示したものです。これによりガンマ線バーストの高エネルギーガンマ線は、エネルギーが高くなるほどその立ち上がりが遅れる傾向にあることが分かりました。

図2
図2 フェルミ衛星でとらえたGRB 090510の光度曲線
上からGBM(8〜260キロ電子ボルト、0.26〜5メガ電子ボルト)、LAT(全ガンマ線イベント、100メガ電子ボルト以上、1ギガ電子ボルト以上)のガンマ線を示してある。一番下の図の黒丸は検出されたガンマ線のエネルギー(ギガ電子ボルト)を示す。
※キロ=10の3乗、メガ=10の6乗、ギガ=10の9乗

 このような傾向は、過去のコンプトン衛星の結果からは予想もしていなかったもので、フェルミ衛星の優れたガンマ線検出能力によって初めて明らかになったものです。また、今回は幸運にもスウィフト衛星により同時にX線残光の観測も行われ、X線残光と高エネルギーガンマ線は似たような減光の振る舞いを示すことが分かりました。

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