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宇宙科学の最前線

宇宙最果ての大爆発をとらえる フェルミ衛星で迫るガンマ線バーストの謎 高エネルギー天文学研究系 宇宙航空プロジェクト研究員 大野雅功

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 図3にはGRB 090510で得られたガンマ線スペクトルを示しました。ここから、低エネルギーガンマ線は折れ曲がりを持ったベキ関数で表されるのに対して、高エネルギーガンマ線は「別のベキ関数」が必要であることが明らかになりました。過去にコンプトン衛星でも見られた高エネルギーガンマ線の「別のベキ関数」の成分がフェルミ衛星ではっきり確認されたのは、このGRB 090510が初めてです。フェルミ衛星ではほかのいくつかのガンマ線バーストでも、この「別のベキ関数」が見えています。どうやらフェルミ衛星によって、高エネルギーガンマ線と低エネルギーガンマ線の振る舞いは、時間的にもスペクトル的にも異なることがはっきりしてきたようです。

図3
図3 フェルミ衛星で得られたGRB 090510のカウントレートスペクトル
中のパネルには得られたベストフィットモデルを示した。

 この原因としては、高エネルギーガンマ線の放射起源が逆コンプトン散乱であることや加速された陽子起源であることに加えて、残光現象と深くかかわっているという可能性も出てきました。今後より多くの観測を行うことで、その放射起源や放射領域の状態などに迫ることができると期待されます。

 GRB 090510では、ガンマ線放射起源だけでなく、超相対論的ジェットの運動学にも迫ることができました。検出された最高エネルギーガンマ線は、ガンマ線バーストとしては史上最高レベルともいえる、およそ310億電子ボルトにまで達していました。これほどのエネルギーのガンマ線が放射領域から電子・陽電子対生成反応を起こすことなく脱出するためには、放射領域であるジェットが我々の視線方向に向かって、光速の99.9999%以上(ローレンツ因子にして1000以上)というとてつもない速度で運動をしている必要があることを示すことができました。すべてのガンマ線バーストがこれほどの規模のジェットを持っているのか、だとするとその生成メカニズムはどのようになっているのか、などについては、今後さらに観測が進むことで明らかになることでしょう。

 GRB 090510におけるフェルミ衛星の発見は、天文学の分野だけにとどまりません。310億電子ボルトの高エネルギーガンマ線は、低エネルギーガンマ線の発生からわずか0.83秒後に検出されました。一方、重力理論と量子力学を統合する「量子重力理論」の一部には、73億光年の長旅を経た場合、310億電子ボルトのガンマ線はもっと到達時間が遅れると予言するものがありました。今回の観測結果はこの予言と矛盾するもので、量子重力理論の枠組みに対して観測結果から直接厳しい制限を与えることに初めて成功したことになります。フェルミ衛星の成果は、基礎物理学の分野にも大きなインパクトをもたらしました。

 ガンマ線バーストは非常に多彩な顔を持つ天体現象で、光度曲線やスペクトルなどはバーストによって大きく異なります。その中で、フェルミ衛星によっていくつか高エネルギーガンマ線に共通する性質も見え始めており、ガンマ線放射機構に迫る手掛かりになると考えられています。今後もフェルミ衛星によって多くのガンマ線バーストが検出できると期待されますが、今回紹介したGRB 090510のような「大物」を狙うだけでなく、さまざまなガンマ線バーストの性質を調べて比較することも重要です。そのため、今日も我々はいかなるガンマ線バーストも逃さぬよう、フェルミ衛星のデータの監視を続けています。

(おおの・まさのり)



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