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宇宙科学の最前線

GEOTAIL衛星で探るオーロラ発生の謎 名古屋大学 太陽地球環境研究所 研究員 宮下幸長

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GEOTAIL衛星のデータの解析

 何がサブストームを引き起こすかを解明するために、私たちは、サブストームが始まる直前から直後の磁気圏尾部の変化、つまり、いつどこで何が起こるかの全容を明らかにしたいと思いました。現在、磁気圏尾部を観測している人工衛星は、せいぜい5〜6機なので、ある一つのサブストームについて磁気圏尾部全体の変化の様子を知ることは非常に困難です。そこで、4000例近くのサブストームの事例をオーロラの観測により集め、そのときの主にGEOTAIL衛星のデータをサブストームの開始時刻をそろえて重ね合わせ、統計処理をするという手法を用いました。そうすることで、磁気圏尾部全体を網羅することができます。

 GEOTAILは、初めて本格的に磁気圏尾部を観測した衛星です。日本の宇宙科学研究所がアメリカと協力して、1992年7月24日に打ち上げました。打上げから18年になりますが、現在でも観測を続けています。現象が起きているその場での直接観測は、太陽地球系物理学の特徴でもあり、私たちに興味深いデータを提供してくれます。今回の統計解析は、GEOTAILがサブストームの解明にとって重要な磁気圏尾部の広範囲を長期間観測し続けたからこそ、成し得たものです。

 図3は、解析結果です。いろいろな物理量を調べましたが、ここではサブストームの現象を調べるのに特に重要な、プラズマの流れの速さと磁場の南北成分だけを示しました。図3右列は、そのときの磁気圏尾部の様子の模式図です。

 まず、図3左列のプラズマの流れの速さを示した図で、右側の黒い四角で囲まれたX〜−20 REから−30 REの領域を見ると、サブストーム開始2分前から開始時にかけて濃い青色になり始め、その後、どんどん増えていきます。これは、地球から遠ざかる速いプラズマの流れが発達していることを示しています。また、図3中列の磁場南北成分の変化を示した図で同じ領域を見ると、サブストーム開始2分前から濃い青色になっていきます。これは、磁場が南向きに発達していくことを示しています。これらのことから、サブストーム開始2分前に、上で説明した磁気再結合がX〜−20 REで起こり、その地球よりも遠い側でプラズモイドが形成し発達していく、ということがいえます。さらに、図3中列の図で左側の四角で囲まれたX〜−7REから−10 REの領域を見ると、プラズモイドの形成とほぼ同時に赤色の部分が現れ、広がっていくのが分かります。これは、磁場が北向きに発達、つまり磁場双極子化が起きていることを示しています。ただし、磁気再結合領域の地球側(図3左列の図で左側の四角で囲まれた領域)では、磁気圏尾部の構造を反映してか、地球に向かう速いプラズマの流れ(黄色から赤色)が少ししか見られません。この詳しい理由の解明は今後の課題になっています。

 このように、解析によって得られたプラズマの流れと磁場の変化は、まさに磁気再結合モデルで予想された変化とよく一致していることが分かります。ここでは示しませんでしたが、エネルギーの変化やその流れなど、ほかの物理量についての詳細な解析結果も合わせると、サブストーム開始前後の磁気圏尾部の構造の時間空間変化と、エネルギーの流れの様子が分かってきました。そして、磁気再結合は、磁気圏尾部にたまったエネルギーを解放し、磁気圏尾部の構造の変化を起こすのに重要な役割を果たしていることが明らかになりました。


図3
図3 GEOTAIL衛星データの解析結果
サブストーム開始4分前から4分後までの、地球に向かう方向(黄色から赤色)と遠ざかる方向(青色)のプラズマの流れの速さ(左列)と、サブストーム開始10分前付近の値を基準にした、磁場の北向き(黄色から赤色)と南向き(青色)の変化の量(中列)を、北から見た赤道面に示した。座標原点は地球中心で、X軸の右方向は太陽と地球から遠ざかる方向、Y軸の下方向は地球の夕方側に向かう方向にとってある。座標の値は、地球から地球半径(RE)の何倍の距離かを表している。右列は、各時刻における磁気圏尾部の様子の子午面断面の模式図。


今後の研究

 サブストーム開始時の磁気圏尾部全体の変化の様子は明らかになってきましたが、残された問題はまだまだたくさんあります。例えば、磁気再結合から激しいオーロラ活動までの間に起こる各現象の詳細な物理過程と因果関係です。現在、国内外で今後の磁気圏観測計画が進められています。日本では、磁気圏でも地球に近い領域を観測するERG計画や、数機が編隊飛行して磁気圏尾部を観測するSCOPE計画があります。サブストームと似た現象が起きる惑星の磁気圏については、日本では、BepiColomboという水星探査計画や、木星探査計画が進められています。衛星数の増加や計測機器の性能の向上、ほかの惑星との比較により、サブストームの解明と普遍的な宇宙プラズマの理解が進むと期待されます。

(みやした・ゆきなが)



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