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宇宙科学の最前線

ミクロの便利屋 宇宙探査工学研究系 助教 三田信

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慣性駆動型アクチュエータ

 「アクチュエータ」というと何だか分かりにくいかもしれませんが、簡単に言ってしまうと「動いて仕事をするもの」です。モーターなどもアクチュエータに含まれ、SFチックな人工筋肉もアクチュエータに分類されます。

 宇宙のような過酷な環境では、モーターなどが使えない場合があります。例えば温度が高かったり低かったりすると、磁石の力が弱まったりなくなったりして、モーターとして動かなくなることがあります。

 MEMSの世界では磁力もよく使われるのですが、静電気の力(静電力)を利用したものが多くなっています。というのも、静電力を使ったアクチュエータは構造が簡単で、原理的には高温でも低温でも動作するからです。ただし静電力を使ったMEMSアクチュエータの場合、発生する力が非常に小さかったり、移動距離が短いという欠点がありました。

 そこでその欠点をなくすため、小さな力をためて出力するようなアクチュエータを研究しています。図3の通り、中にあるおもりが外枠のストッパーにぶつかって起こる衝撃でチップ全体が動きます。このようなアクチュエータを「慣性駆動型アクチュエータ」と呼んでいます。


図3
図3 慣性駆動型アクチュエータの動作

 メキシコトビマメという植物をご存知でしょうか。メキシコトビマメの種子にはガの幼虫が寄生し、中で幼虫が動くと種子全体が動きます。慣性駆動型アクチュエータはまさに、「メキシコトビマメのMEMS版」ともいえるものです。1回の衝突で動く距離は小さいかもしれませんが、何回も衝突させることで移動距離を延ばすことができます。

 図4が実際に作製した慣性駆動型アクチュエータです。このアクチュエータの利点は、電気さえ与えればどこまでも動くことと、発生する力がほかの静電力を使ったMEMSアクチュエータより大きいことです。現在はまだ十分に大きな力を発生できませんが、小さなものなら運べるぐらいの力は発生しています。将来的には発生する力をもっと大きくしたり、たくさん並べることで大きな力を発生させたいと思っています。


図4
図4 慣性駆動型アクチュエータ

将来はどうなるか

 MEMS技術が発達していくと、将来宇宙分野ではどのようなことが起こるでしょう。

 MEMS技術やそのほかの技術を用いることで、将来的にはどんどん小さな衛星や探査機ができてくると考えられます。もっとも、劇的に小さくなるにはまだまだ乗り越えなくてはならない問題がたくさんあります。

 いつか携帯電話サイズの小さな衛星が地球のまわりを回ったり、星を観測したり、あるいはアリのように小さな探査機が遠くの天体にばらまかれ、本当のアリのように協力し合って探査やマイクロ基地建設が行われることでしょう。そして、そこに使われているのは、きっとMEMS技術であるはずです。

(みた・まこと)



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