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宇宙科学の最前線

ミクロの便利屋 宇宙探査工学研究系 助教 三田信

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MEMSで衛星や探査機を小さく小さく

 このMEMS技術を用いることで、これまで衛星や探査機に使われていた部品や装置を小さくしようとしています。これは私が考えたのではなく、それこそ10年、20年前から考えられていて、世界中で研究や開発が行われています。

 加速度センサやジャイロなどの「慣性センサ」と呼ばれるものは、昔からMEMS技術を用いて小さくなっており、ロケットや実験機などにはすでに使われています。衛星や探査機でも使われようとしています。しかし、従来の「大きな」センサに比べると性能や信頼性が低いため、重要な仕事、つまりその部品が故障すると衛星や探査機が機能しなくなってしまうような場合にはまだ使えません。でも、小さなローバーや探査機などでは、小さなMEMSの加速度センサやジャイロが使われることがあります。また、それ以外のデバイスもたくさん研究開発されています。


現在JAXAでは

 では、JAXAではどうでしょうか。現在、いくつかのグループがX線検出デバイスやX線ミラー、赤外線用フィルター、発振器、アクチュエータなど、MEMS技術を用いたさまざまなデバイスを研究開発しています。中には近い将来、実際の衛星に載って活躍する予定のものもあります。

 すべてを紹介することはスペースの都合上難しいので、ここでは私が主に研究開発しているMEMSらしい(というのも変ですが)動くデバイスの研究を紹介します。


着陸レーザーレーダー用MEMSスキャナ

 着陸レーザーレーダーとは、衛星や探査機が着陸しようとしている天体との距離をレーザーで測るものです。衛星や探査機からレーザーを発射し、天体で反射して返ってくるまでの時間を計測して、その時間と光の速度から距離を算出します。

 これまでの多くの着陸レーザーレーダーは、1点しか見られないものでした。平面をスキャンする機能が付いていたとしても大きく、「はやぶさ」のように遠くへ飛ばす衛星や探査機には不向きでした。そこで、MEMSで光を振るスキャナをつくれば、小さくてもたくさんの点を見ることができる着陸レーザーレーダーができることになります。

 図1が現在開発中の着陸レーザーレーダーの構成です。縦と横にレーザーを振ることができるので、平面内の距離を計測することができます。平面内の距離が計測できれば、平面(2次元)+高さ(距離)が算出できるので、天体の3次元像が分かります。今まで1点しか分からなかったものが一挙に3次元になるわけです。こうなると、ただ着陸するときに使うだけでなく、天体の形状を解析したり、反射してきたレーザーの強さなどと一緒に分析すればその天体に関してたくさんのことが分かるようになります。


図1
図1 着陸レーザーレーダーの構成

 図2は着陸レーザーレーダー用MEMSスキャナの構造と作製したスキャナの写真です。MEMSというには大きいですが、小さなMEMSデバイスと同じ方法によってつくっています。

図2
図2 MEMSスキャナ


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