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宇宙科学の最前線

ブラックホールの美 JAXAインターナショナルトップヤングフェロー 高エネルギー天文学研究系 Gandhi Poshak

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 私はチームを率いて、(天文学的には非常に近い距離である)約1億光年ほどの距離にある多数の銀河で、明るい超大質量ブラックホールを観測した。我々は赤外線を検出できる最新のカメラを使用したが、これは低温のガスやダストなどの降着雲は強力な赤外線を出すからである。同時に、分解能に優れた望遠鏡によって銀河の星々とブラックホールへの降着ガスを識別することも可能になり、これらの天体の固有の光度を初めて正確に測定することができた。最も暗いブラックホールでも、太陽3億個分のエネルギーを放出していた。それにしても、このような驚異的なエネルギーを発生させるメカニズムとはいかなるものであろうか。

 図4に示すように、観測したブラックホールからの赤外線とX線を比較すると、重要なことが分かる。この2つの波長帯で放出されるエネルギーの間には非常に密接な関係がある。上で述べたように、X線はブラックホールに非常に近い最も高温の内縁付近で発生する。非常に高温のオーブンから放出される熱と同様、この放射光は周囲のガスを照らし、一番内側のガスを1000度まで加熱する。そのため、必然的に赤外線を放出することになる。


図4
図4 近傍銀河の中心にある超大質量ブラックホールのX 線および赤外線の固有光度
異なる色と円は、 我々の視線方向に対するガスの分布の違いに対応している。あらゆる種類のブラックホールが単一の相関に精度よく従っており、ダストやガスの降着雲の性質を理解する上で重要な手掛かりとなる。


 このような物理的相関関係には多くのヒントが含まれており、ブラックホールの秘密のすべてを解き明かすには、名探偵シャーロック・ホームズと同様、我々もそれらのヒントをどれ一つとして見逃してはならない。例えば、X線と赤外線が非常に密接な関係にあるという事実は、降着ガスそのものの性質を我々に教えてくれる。降着ガスが一様に厚い場合、最も高温の内側の雲を見ることはできず、X線光度にかかわらず赤外線では暗くなってしまうだろう。従って、無作為に抽出した多数の銀河のサンプルにおいては、赤外線とX線のエネルギー比が大きく異なることが予想される。しかし、図4は全体にわたって赤外線とX線の比が一定であることを示している。このことは、一様に厚い雲で覆われているのではなく、雲と雲の間にいくつかのすき間や穴が存在し、そのために最も内側の高温領域が常に観測可能になっているのだとすれば説明がつく。雲が塊状に分布すること(図5)は何年も前から予測されてきたが、我々の新たな観測によってその存在を示す初めての確かな証拠が得られた。

図5
図5 ブラックホール近傍の3次元断面図と降着物質の分布
降着物質は、(a) に示すように「ドーナツ状」に一様に分布すると考えられていた。我々の新たな観測では、(b)に示すようにダストが「塊状」に分布していることを示す証拠が得られた。


結び

 我々はブラックホールの研究で大きく前進しているが、この分野はいまだ未熟でなすべきことが多く残されている。ブラックホールは一般には「怪物」のようなものと考えられているが、私にとっては、宇宙のほかのいかなる場所でも目にすることのできない現象をもたらすことのできる非常に美しい存在である。

(ガンディ・ポシャク、日本語訳:堂谷忠靖)



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