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宇宙科学の最前線

「すざく」がとらえた宇宙で一番熱いガス 東京理科大学 理学部第一部 物理学科 助教 太田直美

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 現在、3億度のガスの起源を説明する最も有力な説は、RXJ1347銀河団が最近激しい天体衝突を経験したというものです。2つの大きな銀河団同士が毎秒4000kmもの猛スピードで衝突し合体すると、ガスの一部が圧縮されて加熱が起きます(図3)。それによって、もともとは1億度程度だったガスの温度が3億度まで上昇し、極めて高温のX線放射として観測されたのではないかというわけです。

図3
図3 銀河団衝突の計算機シミュレーション(韓国忠南大学自然科学研究所 赤堀卓也氏 提供)
左から右へ、2つの銀河団が衝突し、ガスが圧縮されて密度が変化していく様子が見られる。特に白や黄色が、周辺に比べて密度が高い領域に対応する。


 片方の銀河団から見るともう一方の銀河団があたかも弾丸のように飛んできてぶつかるわけですから恐ろしい気もしますが、宇宙ではこのような正面衝突事故(?)が時々起きているようです。この銀河団同士の衝突合体にかかわる運動エネルギーの大きさは、おおよそ10の58乗ジュール(約4ジュールが1カロリーに相当します)。ビッグバンの大爆発に始まったといわれるこの宇宙において、銀河団の衝突はビッグバン以来の一番エネルギーの大きい激しい天体現象ともいえます。
 また、この説によると、3億度のガスが生まれて消えていくまでの寿命は5億年ほどです。宇宙の100億年を超える長い歴史からすれば、あっという間ともいえる出来事。今回の結果は、銀河団同士がお互いの重力で引き合いぶつかり合いながら巨大な天体へと進化していく、まさに成長の一場面をとらえたということができるだろうと考えています。


おわりに

 今回のように、銀河団に潜む超高温のガスが精度よく観測できたのは、世界でも初めてのことです。これは、「すざく」によって、従来に比べて高いエネルギーのX線まで感度よく測定ができるようになったことが決め手になったといえます。今後も引き続き「すざく」のパワーを活かして、銀河団の研究を進めていく計画です。それによってほかの銀河団にも同じぐらい温度の高い場所が見つかってくるかもしれません。また「すざく」の次に計画されているASTRO-H衛星では、銀河団衝突に伴って高温のガスが高速で運動している様子が精密に測定できる可能性があります。思いのほか激しい宇宙の進化が解き明かされていくと期待されます。


(おおた・なおみ)


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