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宇宙科学の最前線

「すざく」がとらえた宇宙で一番熱いガス 東京理科大学 理学部第一部 物理学科 助教 太田直美

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 図2に「すざく」のX線CCDカメラと硬X線検出器という2種類のセンサーを両方使って実際に取得したデータを示します。これは銀河団が出すX線のエネルギースペクトル(各エネルギーのX線がどれくらい出ているか)を表しています。ここでは、X線の最高エネルギーが温度を表すと思ってください。この銀河団のガスの平均的な温度は1億度程度ですが、その中に赤線のように高いエネルギーまで伸びる3億度の成分があることを示しています。
 今回見つけた3億度の高温ガスは、チャンドラ衛星のX線画像も合わせると、銀河団の中で差し渡し45万光年の限られた領域に集中し、スポット状に光っていることも分かります(図1右の点線で囲った部分)。ただでさえ銀河団のガスは温度が高いのに、3億度という温度はこれまでに知られている銀河団のガスの温度と比べても数倍も高い値です。これまではおとなしい(つまり力学的に落ち着いた)天体だと思われてきた銀河団の中に、超高温のガスが潜んでいたのですから驚きです。しかも、宇宙の中で我々の知る最も高温の物質の存在をとらえたことになります。


図2
図2 「すざく」によるRXJ1347銀河団の観測データ
横軸はX線のエネルギーを、縦軸は各X線エネルギーに対する強度を表す。


3億度のガスの起源は?

 では、この宇宙一熱いガスは、いったいどのようにしてつくられたのでしょう。宇宙の中でガスを3億度まで熱するのは、そう簡単なことではありません。
 一般に、ガスはダークマターの重力ポテンシャルに落ち込むことによって高い温度を獲得すると考えられています。その際、重力ポテンシャルが深いほど有利になります。ここで、重力ポテンシャルの深さは銀河団がどれだけダークマターを持っているかで決まり、RXJ1347銀河団の場合には太陽質量の約10の15乗倍になります。これだけの重力ポテンシャルがあっても、この考え方で説明できる温度はせいぜい1億度までなのです。今回見つかった高温ガスは、それより数倍以上も高い温度を示しています。なお、恒星の内部は核融合反応により高温であることが知られますが、例えば一番身近な太陽の中心温度は1500万度程度です。それからしても、やはり3億度はとてつもない温度です。


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