宇宙航空研究開発機構 ISASサイトマップサイトマップ

TOP > レポート&コラム > 宇宙科学の最前線 > 静電浮遊法を用いた超高温液体の研究

宇宙科学の最前線

静電浮遊法を用いた超高温液体の研究  宇宙環境利用科学研究系 助教  岡田純平

│1│

はじめに

 私たちが日常で飲み物を持ち歩くとき、液体を容器に入れて運びます。容器からこぼれると、液体は周囲に広がってしまいます。液体の温度が100℃、500℃と上がっていっても、液体を入れるための容器は必要です。しかし、液体の温度が1000℃を超えると、容器の選択が難しくなります。容器として使っている材料の融点が低いと溶けてしまいますし、液体と容器が化学反応を起こす場合もあります。2000℃を超えると、容器として使える材料がなくなります。  液体の性質を調べる場合、液体を1ヶ所に保持できないと精密な測定ができません。そのため、融点が高く容器を使うことができない液体の性質については、分かっていないことが数多く残されています。工業的に重要な材料でも、シリコン(1412℃)、鉄(1535℃)など高融点の液体については、基本的な性質について案外分かっていません。
 私たちは、こうした1000℃、2000℃という超高温の液体について研究しています。材料の最も基本的な情報となる原子構造、電子構造、密度、あるいは工業的に重要となる粘性、表面張力などの熱物性を測定し、材料開発に結び付けることを目標にしています。


静電浮遊法

 液体を保持するために容器が使えない場合、液体を浮遊させれば液体と容器の問題を避けることができます。しかし、単に浮かせただけだと、液体が動き回ってしまいます。こうなると、正確な測定が行えません。浮かせた上で動かないようにすること、これは実験にとって重要ですが、容易ではありません。
 JAXAは、国際宇宙ステーション(ISS)で浮遊溶解実験を行うために、静電浮遊法の研究開発を進めてきました(ISASニュース2005年6月号「無容器浮遊と過冷却の科学」参照)。静電浮遊法は、帯電させた試料とその周囲に配置した電極との間に働くクーロン力(プラスとマイナスの間に引力が働き、プラス同士またはマイナス同士では斥力が働く)を利用する浮遊方式です(図1)。この方法は、NASAジェット推進研究所(JPL)で基礎技術が確立されましたが、帯電すればあらゆる試料を浮遊できるなど優れた特徴を持ちます。浮遊した試料に加熱用レーザーを照射し、試料を溶かします。私たちはこれまでに、タングステン(融点3410℃)やレニウム(融点3180℃)などの超高温融体の溶解に世界で初めて成功しています。
 静電浮遊溶解装置は、ISSで実験することを目標に開発してきました。そのため、ロケットを使って装置を運び上げ、実験スペースの限られたISSで実験できるよう、コンパクトかつ運搬が容易な仕様になっています。ですから、ISSはもちろん、普段使っている実験室を離れさまざまな場所へ装置を設置し、実験を行うことができます。そこで、私たちは静電浮遊溶解装置をISS以外の場所へ設置し、超高温液体の原子構造や電子構造を調べることができないかと検討を進めました。


図1
図1 静電浮遊溶解装置の内部
上下の銅電極の間(電極間距離8mm)に直径2mmの金属球が浮遊している。電極間の電圧は約15kV。放電を防ぐために、チャンバー内は真空雰囲気(〜10-5Pa)に保たれている。

│1│