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宇宙科学の最前線

宇宙機フレキシブル自律熱制御 名古屋大学大学院 工学研究科 航空宇宙工学専攻 講師 長野方星

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 このRTPデバイスを金星探査機PLANET-Cに搭載できないかという話があり、実際に搭載を目指して構造的にも検討を加えたモデルを製作し、実験評価を行いました。まず大気圧中で温度を変えながらフィンの展開、収納評価試験を行いました(図4a)。次に、宇宙環境を模擬して、熱真空試験を行いました。その結果、温度変化に伴う自律的な放熱変化が実証され(図4b)、従来よりも軽量で放熱性能に優れ、さらに保温機能、太陽光吸熱機能を有した、これまでにないデバイスが実現しました。さらに、耐打上げ環境性評価試験も行い、ロケットの打上げ環境に耐えられることを確認しました。次に、PLANET-Cへの適用化研究として、トレードスタディを行いました(図4c)。あるミッション機器の熱制御を想定し、従来の放熱面とヒーター保温による熱制御方法と、RTPを用いた熱制御手法を比較しました。その結果、低温時に必要となるミッション機器のヒーター電力量を90%以上削減できることが明らかになりました。残念ながらスケジュールの関係から搭載には至りませんでしたが、PLANET-Cのように熱環境変化の大きいミッションは宇宙科学分野では今後ますます増えてきますので、ぜひ使っていただきたいと考えております。

図3
図4 自律型吸放熱デバイス搭載に向けた研究開発

おわりに

 熱制御というのは目立たない地味な仕事ですが、ミッションを高次に実現させる上で極めて重要な役割を担っているといえます。特に、これからのミッションは高密度実装、高付加価値化と軽量化、省エネ化が同時に求められるため、極限まで設計を詰める必要があります。極限まで詰められた設計が最後に帰着するのは「熱の問題」です。また、国内外を問わず宇宙機のトラブルの多くは、直接的であれ間接的であれ「熱の問題」が密接にかかわっています。熱設計を今後どのように発展させていくか、次世代の熱設計を支える先進熱要素技術をどのように取り込んでいくか、これが次世代ミッションの成否のキーになるのではないでしょうか。

(ながの・ほうせい)


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