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宇宙科学の最前線

小さな回路で大宇宙の情報を伝える〜最先端電波工学技術による宇宙通信〜 宇宙情報エネルギー工学研究系 教授 川崎 繁男

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 電波通信工学では、上記の集積回路のほかに小型アンテナが必要です。MMICが薄型構造のため、これに相性の良い平面アンテナがよく使われ、近年ではこれらを組み合わせ一体化したアクティブ集積アンテナ(AIA)を用いた、アンテナ付き送受信機が試作されています。しかし、そのような多機能なアンテナ付き電子回路の設計は複雑であるため、コンピュータ支援によるアンテナ・回路設計ツール(CAD)が必要となり、我々はこれらの設計法とともに、設計ツールも研究開発しています。この設計ツールを用いて試作した、コンパクトなアンテナ付き送信機AIAの原型とそれを用いた40W級32素子AIAアレーを、図3に示します。多機能高出力ながら、小型・軽量化に成功しています。最終的には、数十mm角の世界最小のアンテナ付き送受信機をつくろうとしています。
 超高速無線通信エネルギーネットワークシステムを構築するには、電子位相制御と半導体素子による集積アレーアンテナ(AIPAA)が必要です。ここでアレーアンテナとは、小型アンテナをたくさん規則正しく並べ、図1の大きなパラボラと同じ働きをさせようとするアンテナのことです。このAIPAAは、先のAIAと、電子位相制御型アレーアンテナ(APAA)を融合させたものです。電子的にアンテナビームを操作できるため、機械駆動式と比べて高速なビーム制御ができるようになり、多数の通信ポイントや高速移動体などにも通信やエネルギーの伝送が可能となります。
 我々の研究のユニークな点は、一つの周波数の電波を使って、情報・通信とエネルギー・電力を同時に伝送しようとするところです。これを実証するため、被災地や月面でのロボット、ローバーに電力と情報を無線で送る実験を行いました。図4が、そのときの実験の様子です。送電部は総出力120WのAIAアレーであり、約3m離れて設置した車輪駆動のローバーには、送電された無線電力を直流に換えるアンテナ付き検知器アレー(レクテナ)が搭載されています。簡単な追尾機能を送電部に付け、ローバーの前後、左右の運動時に無線で電力を送ることに成功しました。まさに小さな送電器が、大きなシステムを動かすので、MMICは「小さな巨人」ともいえるでしょう。今後は、高速移動体に送電しながら通信する実験を検討しています。

(かわさき・しげお)


図4
図4 ローバーへの無線エネルギー伝送実験((財)無人宇宙実験システム研究開発機構と京都大学生存圏研究所などの協力による)
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