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宇宙科学の最前線

小さな回路で大宇宙の情報を伝える〜最先端電波工学技術による宇宙通信〜 宇宙情報エネルギー工学研究系 教授 川崎 繁男

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小(柔)よく大(剛)を制す

 電子通信技術が宇宙技術に大きく寄与することは、前節の説明でお分かりいただけたかと思います。しかし、物理的には非常に小さな電子部品が、大きな宇宙機や宇宙ステーションのどこに装備されるのかが分からないと、本当に宇宙開発に大事なものかどうか判断が難しいかと思われます。
 打上げ後、軌道投入された科学衛星などで目に付く電気的な器材は、太陽電池パネルとアンテナです。太陽電池パネルは、主に搭載電子機器の電源電力を供給するもので、アンテナは衛星に搭載したセンサーなどで取得したデータや衛星へのコマンドを地上とやりとりするために必要です。太陽電池パネルとアンテナは、小型化した電子回路やそれら回路の組み合わせ(モジュール)に接続されています。それらがないと電源による電力供給もデータ通信も不可能で、衛星そのものが大きな「張りぼて」となってしまいます。
 すなわち、非常に小さくて多くの要求に柔軟に対処できる電子回路が、大きく頑丈な宇宙機の重要な任務をこなすことになります。また、これは地上局にもいえることで、小さな回路の集まりで、高速で移動している衛星を追尾し交信するという要求を満足できます。まさしく、小さな柔(回路)で大きな剛(衛星や地上局)を制御しているのです。
 先に述べた宇宙通信工学、宇宙電波科学、無線通信エネルギー伝送の3つ研究分野に対し、当面の研究目標として我々は、超小型・超高性能センサーと半導体集積回路、世界最小のアンテナ付き送受信機、超高速無線通信エネルギーネットワークの実現を掲げています。このような最先端電子通信技術の研究開発に当たっては、衛星や宇宙ステーションで使われる宇宙電子機器の超小型・軽量・多機能化と、それらを使ったネットワークの実現、宇宙電子部品の高信頼性、ペイロード(宇宙機に搭載される荷物の最大量)などの問題を、内外の研究者と協力しながら積極的に解決しています。


MMICは小さな巨人です

 超小型・超高性能センサーと半導体集積回路の実現のためには、新しい概念で半導体材料と高性能デバイスを用いたマイクロ波(周波数が300MHzから30GHzまでの電磁波)やミリ波(マイクロ波帯の上の周波数でおおよそ300GHzまでの電磁波)、テラヘルツ波(周波数がミリ波以上赤外線以下の電磁波)で動作する高周波・高出力・低雑音・高効率集積回路を実現する必要があります。図3右は、マイクロ波帯の5.8GHzで比較的高い出力で動作するガリウムヒ素半導体によるマイクロ波集積回路(MMIC)です。このMMICの大きさは4mm角程度しかありませんが、これを改良して図1の臼田宇宙空間観測所の64mのアンテナから放射する超小型送信用増幅器が実現可能です。また、近年提案されているアンテナ・高周波回路・制御回路・信号処理回路を一つの半導体基板の上につくり上げる、システムオンチップという技術を使うことも検討しています。さらに、これらの技術は高エネルギー粒子の検出にも使え、粒子のエネルギーの一部をマイクロ波素子のインダクタンスの変化としてとらえるX線検知器の共同試作も行っています。

図3
図3 40W級32素子アクティブ集積アンテナ(AIA)アレー
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