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宇宙科学の最前線

小惑星イトカワを探る その後の進展

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その後の地上からの観測

 「はやぶさ」によるイトカワ探査が終わってから約1年後の2006年末から2007年半ばにかけて、イトカワが地上の望遠鏡で観測されました。このときに特に注目されたのが、イトカワの自転運動です。小惑星のような小天体の自転運動については、 YORP効果というものが知られています。小天体は太陽の光で暖まりますが、その熱が赤外線として宇宙空間に非等方的に放射される結果、小天体の自転が変化するという効果です。非常に小さな力なのですが、長い時間にわたって積み重なっていくと、小天体の自転速度が変わってしまいます。
 イトカワについては、「はやぶさ」によってその形状や表面の様子が詳細に分かりましたから、このYORP効果がどのくらい現れるのか計算することができます。理論的な予想ではイトカワの自転が遅くなっているはずだったのですが、観測ではイトカワの自転に変化は見られませんでした。理論との食い違いの理由は分かっていませんが、例えば、イトカワ内部の密度に不均一性があって重心の位置が想定されているものと異なれば説明できる、という説もあります。YORP効果については、北里宏平氏・Daniel J. Scheeres氏・J. Ďurech氏などが研究を進めています。


赤外線天文衛星「あかり」からの観測

 日本が2006年に打ち上げた赤外線天文衛星「あかり」は、全天のサーベイ観測や多くの赤外線天体を観測して成果を挙げていますが、2007年7月には、小惑星イトカワの観測にも成功しました。小惑星の大きさは、赤外線の観測で推定することができます。正確に大きさや形が分かっているイトカワのような小惑星をあらためて観測することで、赤外線観測による小惑星の大きさ推定の精度を上げることができるのです。この「あかり」での観測には、「あかり」のチームに協力していただいたほか、長谷川直氏やThomas Müller氏がデータの解析を進めています。


図4
図4 3次元GISによる斜度マップ(左)とAMICA vバンドの輝度マップ(右)
図の下部のカラーバーは、斜度や輝度それぞれの大小を表す。青が最も値が小さく(傾斜が緩い/輝度が低い)、赤が最も大きい(傾斜が急/輝度が高い)。

そのほかの進展

 イトカワ表面にある岩石や石の分布や配置、その存在形態などから、宮本英昭氏らによってイトカワ表面での物質の流れが研究されました。その結果、イトカワ表面上の粒子はイトカワ自身がつくる重力場に沿って動いていくと解釈するのがよいことが分かりました。例えば、隕石がイトカワに衝突したときにイトカワ全体が揺すられて、表面の物質が動いていくのではないかと考えられます。
 このように、イトカワについてはさまざまな解析がなされていますが、解析結果をパソコンの画面上に立体的に表示するソフトも開発されました。3次元のGIS(地図情報システム)を応用したもので、平田成氏・出村裕英氏らによって開発されています。このソフトを用いると、イトカワの形状を画面上に表示して、その表面にアルベドや重力、表面の傾きなどのデータを描いたり、緯度経度の線を描いたりできます。


まとめ

 「はやぶさ」がイトカワ周辺で取得してきたデータは、「だいち」などの地球観測衛星や月周回衛星「かぐや」に比べれば、その量は非常に少ないです。それは、データが送られてきたときの距離がまったく違うからです。はるか3億kmの彼方から送られてきたデータをきちんと処理して、今後の惑星科学の発展のために寄与することが、「はやぶさ」チームやイトカワのデータを扱う科学者の使命です。これは、これまでの解析作業でかなりの部分が達成されました。ただし、まだやり残していることも多く、「はやぶさ」がイトカワの表面物質を届けてくれれば、また新たなサイエンスが始まります。まだまだイトカワの探求は続きます。

(よしかわ・まこと)



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