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宇宙科学の最前線

小惑星イトカワを探る その後の進展

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X線データの解析

 イトカワの表面物質については、蛍光X線分光計(XRS)が取得したデータの解析も進んでいます。太陽からのX線がイトカワ表面に当たると、表面物質からX線が放射されます。これを蛍光X線と呼びます。このX線のスペクトルを調べることで、表面物質の元素組成を推定することができるのです。
 XRSのさらなるデータ解析は、荒井武彦氏・岡田達明氏を中心に行われました。XRSの視野は3.5度ほどあるのでNIRSに比べるとかなり広いのですが、「はやぶさ」がイトカワに十分接近すれば、イトカワ表面の一部分だけを見ていることになります。XRSのデータの詳細な解析により、イトカワの表面物質の元素組成はほぼ一様ですが、揮発性元素である硫黄については場所によって存在量が異なる可能性もあることが分かりました。このXRSのデータからも、イトカワの表面物質が普通コンドライトである可能性が高いことが確認されました。



図2
図2 1.57μ近赤外線における反射率
濃い青色が反射率0.126、赤色が0.145である。


図3
図3 イトカワの最も精密な形状モデル
形状のデジタルデータによって、コンピュータの画面上に3次元モデルとして表示できる。

距離・軌道データの解析

 「はやぶさ」が持っているもう一つの科学観測機器は、LIDARと呼ばれるレーザー高度計です。これは、「はやぶさ」とイトカワの間の距離を、レーザー光線によって精密に計測する装置で、カメラによる画像などと組み合わせると相対位置を精密に知ることができます。LIDARは、ミッション期間中に約167万点のデータを取得しています。このデータの解析は、阿部新助氏やOlivier S. Barnouin-Jha氏によって進められました。その結果、イトカワの質量や表面の起伏が精密に求められました。
 なお、イトカワの質量については、軌道工学の立場から、池田人氏が検討を進めています。質量そのものの値に加えて、イトカワ内部に密度の違いがあるかどうかの検討も行われていますが、今のところ密度の不均一性を示す証拠はありません。
 密度を得るためにはイトカワの体積を求める必要がありますが、イトカワの形状モデルはRobert W. Gaskell氏によって継続的に精密化されました。精密なモデルの体積を使って計算した密度の値は、最初に算出された1.9g/cm3とほぼ同じです。普通コンドライトの密度は3.2g/cm3くらいですから、イトカワが内部まで普通コンドライトでできていると仮定すると、内部の空隙率は40%ほどになります。




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