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宇宙科学の最前線

「ひので」で見えてきた太陽風の源

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はじめに

 太陽風とは、文字通り太陽から吹き出している「風」のことです。この風は、私たちの身のまわりで吹いている風とは違い、電子や陽子といった、電気を帯びた高速の粒子(荷電粒子)の流れです。地球の周辺では秒速200kmから800kmに達するこの太陽風は、地球も太陽系も超えて太陽からおおよそ150億km(太陽と地球の距離の100倍)のところで、星間ガスとの間に、太陽を中心とした球状の終端衝撃波を形成するまで吹き渡ります。1977年にNASAが打ち上げたボイジャー1号・2号は、木星や土星の観測を行った後、1号が2004年、2号が昨年、それぞれこの衝撃波面を通過したと報告されました。太陽系最遠の惑星である海王星の軌道半径が45億kmですから、太陽系全体は太陽風の中に丸々浸されていて、太陽風の影響をさまざまな形で受けています。地球の磁気圏が太陽から反対方向に伸びた吹き流しのような格好をしているのも、地球や木星、土星などでオーロラが光るのも、太陽風の影響です。また、太陽風は荷電粒子を運んでくるため、例えば地球を回る人工衛星に帯電による故障を引き起こすことさえあります。気象、通信、GPSなど、社会のバックボーンに人工衛星が大きな役割を果たしている今日、太陽風は私たちの日常生活にまでかかわり始めているといえましょう。
 太陽系に幅広い影響を与えている太陽風ですが、太陽のどこから、どのようにして吹き出しているのか、実はこのことはよく分かっていません。太陽風には、その速さから「高速」と「低速」の2種類があります。1990年に打ち上げられたユリシーズ衛星によって、前者は主として太陽の北極・南極を含む高緯度地帯から、後者は低緯度地帯から出発していることが確認されました。しかしながら、これらの太陽風がコロナ中で実際に流れ出ている現場を画像としてとらえた観測は、これまでありません。また、太陽風が太陽を出発して、惑星間空間を流れていく速度(超音速になっています)にまでどのように加速されるのか、そのメカニズムもよく分かっていないのです。


「ひので」X線望遠鏡

 2006年9月に打ち上げられた太陽観測衛星「ひので」には、可視光磁場望遠鏡SOT、X線望遠鏡XRT、極端紫外線撮像分光装置EISという、3台の最新鋭の望遠鏡装置が搭載されています。このうち、本稿の主役であるXRTについて説明しましょう。XRTは、コロナ中のガス(高温のため電離していてプラズマとなっています)の温度・密度の2次元分布を調べるとともに、電離したプラズマガスが磁力線に沿った方向にしか動けないことから、X線画像を通じてコロナ中の磁力線の形状を調べることができます。「ひので」の前号機である「ようこう」衛星に搭載された軟X線望遠鏡SXTと同じく、斜入射の光学系を採用していますが、望遠鏡を大型にすることで空間分解能をSXTの約3倍向上させるとともに、焦点面検出器として裏面照射型のCCDを用いることで、SXTでは感度がなくて観測できなかった100万度から200万度の、比較的「低温」のコロナも観測することができます。また、衛星のデータ処理・伝送レートが高速化したことにより、特にフレアが起きていない静穏太陽の観測では、SXTに比べてほぼ1桁高い頻度で撮像を行うことができるようになりました。低温コロナを高い撮像頻度で観測できることで、これまで知られていなかったコロナ中の興味深い現象が明らかになってきています。その中の一つが、ここで紹介する太陽風の源となるコロナガスの流出です。


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