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宇宙科学の最前線

宇宙天気の科学

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 通信総合研究所が情報通信研究機構に名称を変えた2001年から、同機構の仲間とともに、太陽風を入力とした地球磁気圏のリアルタイムシミュレーションを始めました。磁気圏の宇宙天気予報です。これを進めていく過程で、オーロラの発生は磁気圏のトポロジーの変化によっていること、すなわち磁場のエネルギーの解放がプラズマの圧力や運動を発達させてオーロラ嵐や磁気嵐を直接に引き起こすことが分かりました。地球嵐の発生の理解が進んだ現在、太陽の表面の観測データから太陽風の構造をモデリングする段階に達しています。また研究グループのメンバーは日本中に広がり、九州大学、気象大学校、そして核融合科学研究所で、宇宙環境シミュレーションを進めています。
 また、文部科学省学術創成研究「宇宙天気予報の基礎研究」(代表:京都大学 柴田一成教授)にも参加して、宇宙環境モデリング研究を継続しています。
 最も重要で、しかしながら大変難しいのが、太陽フレアの発生予測です。太陽観測衛星「ようこう」と「ひので」によって、太陽フレアの発生の仕組みが、だんだん分かってきています。黒点上空にある磁力線が大きくねじれてエネルギーをため込んでいく様子、そして、あるときに形の変化を伴って磁場に蓄えられたエネルギーが解放される様子が、X線の波長を持った望遠鏡で観測されました。磁力線のトポロジー変化が起こることは、よく考えると、地球磁気圏でオーロラが発生する状況ととても似ています。それもそのはず、太陽コロナも地球磁気圏も、プラズマと磁場から構成される世界です。宇宙プラズマ物理学が、太陽と地球の嵐を解明してくれると思いながら、研究を進めています。


図4
図4 シミュレーションによって可視化された地球磁気圏

防ぎたい宇宙環境による被害 ―結びに代えて―

 私たちJAXAの宇宙環境グループでは、宇宙環境を人工衛星などを用いて直接観測することによって、地球嵐によって増加するバンアレン帯電子や、太陽フレアによって発生する太陽放射線の地球への侵入機構などについて、監視と研究を行っています。宇宙の放射線の影響は、人工衛星の部品に現れます。宇宙環境グループでは、耐放射線宇宙部品の開発において、衛星周辺の放射線環境を定量的に見積もる作業を行いました。また、いくつかの衛星事故(サテライトアノマリー)発生時における宇宙環境の状態の分析を行い、原因究明に参加しています。衛星が非常に強く帯電する状況、大気膨張によって姿勢が大きく乱される状況も、宇宙環境の変動によって発生します。
 このような経験を通じて、私たちの中には、環境変動に強い衛星をつくりたいという想いがわいてきました。目下、JAXAの衛星設計基準改定プロジェクトに参加して、宇宙環境ワーキンググループを主宰しています。衛星設計基準の改訂作業は、緊急かつ重要な事項として全技術分野で進められていて、多くのワーキンググループがあります。帯電や部品のワーキンググループにも参加しながら、そこでは宇宙工学の専門家との共同作業を行っています。
 過酷な宇宙から衛星や宇宙飛行士の安全を守ることが、宇宙環境研究の使命です。本稿では、太陽の嵐や地球の嵐について、どこまで予測が可能かという視点で大半の字数を費やしましたが、科学研究の出口には、強い衛星をつくりたいとする技術研究課題が大きくそびえていました。JAXAの宇宙環境研究は、理学と工学が車の両輪となって、今、進んでいます。

(おばら・たかひろ)



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