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宇宙科学の最前線

宇宙天気の科学

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 オーロラは、宇宙から地球の極域を目指して、ものすごい速度で突入してくる電子が、地球大気と激しく衝突して起こる、大気の発光現象です。オーロラの光は、地上100km付近を中心に輝きます。オーロラの光が輝くためには電子が加速されていることが必要ですが、人工衛星の観測によって、オーロラ上空に電子を加速する電圧があること、地球規模で発電が行われていることが分かりました。大きなオーロラの発生時には、その上空を飛翔している人工衛星がオーロラ粒子の直撃を受けて、異常状態になりました。
 また、オーロラになれなかったプラズマは、今度は電磁波動や磁場の振動のエネルギーをもらい、非常に高いエネルギーを持つ粒子(放射線帯粒子)になり、人工衛星の部品や表面に、甚大な被害を与えています。また、オーロラ電子は強いX線を放射します。宇宙飛行士も注意しなければならない状況が発生します。
 地球の天気になぞらえて、変動する宇宙環境を「宇宙天気」と呼んでいます。宇宙天気とは、人工衛星や宇宙飛行士、通信などに障害を及ぼす宇宙環境の変動です。そして、太陽や地球の嵐の発生を事前に予測しようとする「宇宙天気予報」への取り組みも、世界中で進んでいます。


図2
図2 放射線が飛び交う宇宙空間

宇宙の嵐を科学する

 世界には、宇宙天気予報を実現しようと努力している組織があります。国際宇宙環境情報サービス(ISES)がそれで、本部は米国コロラド州ボルダーにあります。今から10年以上前になりますが、私は、それまで所属していた宇宙科学研究所から郵政省通信総合研究所に宇宙環境研究室長として異動して、日本の宇宙天気予報の確立の仕事を始めました。通信総合研究所は、電波研究所以来の電離層研究に加えて、太陽活動の本格的研究を始めていました。そこに、地球磁気圏における宇宙天気予報を付加する目的がありました。
 地球の周辺には、バンアレン帯として知られた放射線の帯が存在しています(『ISASニュース』2006年5月号「ジオスペース最高エネルギー粒子誕生の謎を追う」参照)。放射線帯の最も地球から遠い領域は、静止軌道高度に達しています。太陽フレアは、光、電波、放射線のほかに、太陽のコロナのガスを放出します。このガスの塊は非常に大きく重いもので、飛び出す速度も秒速2000kmに達することもあり、とても大きなエネルギーを運んでいきます。地球に向かったコロナのガスは2日程度で地球磁気圏に衝突し、磁気嵐と呼ばれる地球の嵐が発生しますが、この磁気嵐の回復過程でバンアレン帯は非常に活性化することが分かりました。それには太陽風の変動、特に太陽風磁場の赤道面に対する成分の向きが重要で、これが下向き(南向き)になった状態が続くと、バンアレン帯の放射線粒子(特に電子)が増大することが分かりました。


図3
図3 磁気圏観測衛星「あけぼの」が宇宙から観測したオーロラ像


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