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宇宙科学の最前線

 超新星残骸で加速される宇宙線

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宇宙線加速の「瞬間」をとらえた

 私たちはこのような「非熱X線」放射が強い超新星残骸であるRX J1713.7−3946を、「チャンドラ」衛星と「すざく」衛星によって観測しました。まず「チャンドラ」によるX線観測の結果は、驚くべきものでした。図3に示すように、残骸外縁部の2000年、2005年、2006年のX線イメージを比較したところ、年々変化する非熱X線放射の様子が明らかになったのです。外部衝撃波に対応すると思われるフィラメント状の放射領域が現れたり消えたりしています。この観測事実は、非熱X線が「シンクロトロン放射」であることを明確に示しています。衝撃波において極めて高いエネルギーを得た(「加速」された)極めて少数の電子が、磁場中をらせん運動することで放出される放射です。このような高エネルギー電子は、まさに宇宙線です。フィラメントが減光するのは、シンクロトロン放射によって高エネルギー宇宙線電子がエネルギーを失ったためと考えられ、フィラメントが新たに現れるのは、宇宙線の加速がまさにその場所で進行していることを示しています。私たちは宇宙線の加速現象を初めて「リアルタイム」的にとらえることに成功したのです。今まで、超新星残骸の衝撃波で宇宙線が加速されていることは研究者によって広く支持されていましたが、今回はとうとう宇宙線加速の「瞬間」を目撃した、といえます。

図3
図3 左:超新星残骸RX J1713.7−3946西部の「チャンドラ」X線イメージ(カラー)とガンマ線イメージ(H.E.S.S.:等高線)。H.E.S.S.チームとの共同解析から、X線とガンマ線の強度分布がおよそ一致していることが明らかになっている。
右:北西部box b、cの拡大図。年々、変動するX線フィラメントがある。宇宙線が加速される様子が初めて「リアルタイム」的にとらえられた。 Uchiyama et al. Nature 449、 576(2007)より転載

 また、観測された年スケールでの強度変動を説明するためには、磁場が星間空間の100倍程度、1ミリガウスの強度に増幅されていることが必要です。宇宙線加速に伴う磁場の非線形増幅に起因すると考えられ、宇宙における衝撃波加速の基本的特性を解明する上で新たなヒントを与える結果となっています。  また、前述の超新星残骸カシオペアAの「チャンドラ」X線データを解析した結果、やはりX線フィラメントの時間変動が明らかになりました。ただ、カシオペアAでは内部衝撃波を受けたフィラメントが明滅している点が、RX J1713.7−3946の場合とは本質的に異なります。高エネルギー宇宙線の加速が、星間空間に形成される外部衝撃波だけではなく、イジェクタ内の衝撃波でも起こり得ることを示している点で、とても重要な結果です。

 私たちは「すざく」衛星でも超新星残骸RX J1713.7−3946を観測しました。その結果、硬X線領域でスペクトルが折れ曲がり、理論的に予想されていた「カットオフ」が実在することが確認されました。これは宇宙線電子の加速が頭打ちになったこと、すなわちシンクロトロン放射冷却によって正味のエネルギー増加がゼロになったことを示しています。この観測結果と衝撃波加速の理論との照合により、十分に乱れた磁場の中で、とても効率よく宇宙線の加速が進行していることが分かりました。「チャンドラ」による観測で判明した0.1〜1ミリガウスの磁場と、「すざく」で明らかになった十分に乱れた磁場中での加速という2つの観測結果から、宇宙線陽子が10の15乗電子ボルト以上の超高エネルギーに加速され得ることが導かれ、陽子を主成分とする銀河宇宙線が超新星残骸の衝撃波において加速、生成されていることの強い証拠を得ることができました。




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