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宇宙科学の最前線

超新星残骸で加速される宇宙線

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超高エネルギーガンマ線の起源は?

 超高エネルギーガンマ線(10の12乗電子ボルト程度のエネルギーをもつ光)の観測は、超新星残骸での宇宙線加速を語る上で欠かせません。ドイツのマックスプランク研究所を中心として開発されたステレオ型大気チェレンコフ望遠鏡H.E.S.S.による超高エネルギーガンマ線観測によって、天体粒子加速の研究における記念碑的な成果が次々と得られています。ステレオ型大気チェレンコフ望遠鏡は、天体から放射されたガンマ線が地球大気に入射した際に発生するカスケードシャワー(電子・陽電子とガンマ線のねずみ算的増殖)からのチェレンコフ光を、地上に配置した複数の望遠鏡でとらえて、入射ガンマ線の到来方向とエネルギーを測定する装置です。図3左に示すように、超新星残骸RX J1713.7−3946では、超高エネルギーガンマ線で残骸の殻構造が「撮像」されています。超高エネルギーガンマ線による天文学が創成されたことを最もよく表す例で、大気チェレンコフ望遠鏡による最近の成果にはノーベル賞級の意義があるといわれています。

 X線と超高エネルギーガンマ線は、ともに超新星残骸における最高エネルギー領域の粒子によって放射されます。X線は前述のようにシンクロトロン放射であり、ガンマ線は(1)高エネルギー「電子」が宇宙マイクロ波背景放射と相互作用する逆コンプトン散乱、あるいは(2)高エネルギー「陽子」が残骸中のガスと衝突して生ずる中性パイ中間子の崩壊、によるものが考えられます。いずれの場合も、X線とガンマ線は同じエネルギースケールの粒子に起因するため緊密に関係し、統合的に研究することが肝要になってきます。私たちはH.E.S.S.のグループと協力して、X線とガンマ線の詳細な比較を行っています。図3左はその一例です。


 超新星残骸RX J1713.7−3946においてシンクロトロンX線の強度変動を発見したことを、先に説明しました。その結果は、この超新星残骸の超高エネルギーガンマ線が、中性パイ中間子の崩壊ガンマ線であることを、ほぼ決定づけることになります。強度変動するフィラメントは、前述のように1ミリガウス程度の磁場をもちます。残骸の殻全体の平均では0.1ミリガウス程度の磁場が存在することが、X線データから推定できます。この磁場強度では、ガンマ線を逆コンプトン散乱で説明することはかないません。したがって、中性パイ中間子の崩壊ガンマ線であることになります。私たちはガンマ線放射機構の「縮退」を解き始めました。今まで天体高エネルギー粒子加速の現象は、超新星残骸に限らず、高エネルギー電子を通して観測されてきましたが、初めて高エネルギー陽子を観測できるようになったのは画期的なことです。

 超新星残骸RX J1713.7−3946において、1ミリガウスにまで増幅されている磁場が発見されたこと、宇宙線加速がとても乱れた磁場中で進行していること、超高エネルギーガンマ線の放射機構が宇宙線陽子に起因する中性パイ中間子の崩壊ガンマ線であること、これらの新しい観測結果から、銀河宇宙線が超新星残骸の衝撃波において加速されているという可能性が極めて有力になりました。「すざく」や「チャンドラ」などのX線観測とガンマ線観測を組み合わせる研究は、まだ始まったばかりです。H.E.S.S.に加え、MAGIC、CANGAROO-3、VERITASなど世界各地に大気チェレンコフ望遠鏡があるほか、私たちも参加しているガンマ線天文衛星GLASTが2008年春には打ち上げられる予定です。今後X線、ガンマ線による天体高エネルギー粒子加速の研究は、さらに「加速」して進んでいくことでしょう。

(うちやま・やすのぶ)




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