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宇宙科学の最前線

フォトルミネッセンスを用いた太陽電池用半導体基板の品質評価〜1秒以下で微細な欠陥分布をとらえる〜

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宇宙用太陽電池にも応用

 我々はさらに、単結晶Siや多結晶Siだけでなく、宇宙用として注目される高効率InGaP/GaAs/Ge(リン化インジウムガリウム/ヒ化ガリウム/ゲルマニウム)3接合太陽電池やCIS系太陽電池にも、PLイメージング法による評価を応用しました。これらの太陽電池は複数の異なる半導体材料が積層した構造をしているため、これまで各層を選択的に評価することが困難でした。
 そこで我々は、多層セルは上部の層ほど禁制帯幅が広い材料であるため、長波長の光は上部の層を透過し、下部の層から発生したPLも上部の層を透過するという特性を利用し、複数の波長の光を用いて選択的に各層を評価できる「選択励起PLイメージング法」を開発しました。
 これにより、宇宙用化合物太陽電池の各層ごとの品質評価も高速・高空間分解能で行えるようになりました。さらに最近では非破壊・非接触性や前処理不要の特長から、衛星搭載用太陽電池の不具合解析でも大きな役割を果たすようになってきています。これらについては、機会があれば、またご紹介したいと思います。


装置開発余話

 筆者は博士論文の研究以来、ここで紹介したようなPLを利用した結晶評価の研究に取り組んできました。当初はPL評価法があまり普及していなかったので、装置を自分で設計し、組み立て、調整していました。その後大きなプロジェクトに加わることで相応の予算が使えるようになり、また大掛かりな装置構成となり、そしてさらに個人的にも時間的余裕がなくなってきたこともあって、光学測定器メーカーと共同で装置開発することが多くなりました。しかし、今回のPLイメージング装置は、一見単純に見えるのですがいくつか課題があり、いつも協力してもらっている測定器メーカーも共同開発に消極的でした。
 このような状況で、モノをつくることが得意な東京大学博士課程院生の杉本広紀君が装置作製に乗り出しました。これまで当研究室で培ってきたノウハウを背景に、専門メーカーに最高性能の光学部品を特注したり、通販で使えそうな部品を集めたりして、研究室のほかの学生も協力して装置を組み上げました。自分たちでつくった強みで、気付いたところはすぐに改良することができ、HF水溶液浸法への展開も迅速に行えました。
 この分野は競争が激しく、Si太陽電池では世界最高の変換効率を実現させたオーストラリアのニューサウスウェールズ大(UNSW)のM.Green先生のグループが強力なライバルです。この装置の特許を申請し、関連の速報論文の採択も決まった後、プレプリントを担当者にお送りしたところ、「ほとんど同じことを狙っていたが先を越されてしまった」と悔しがっておられました。今回は、インハウスで装置を組み立てた機敏さが功を奏しました。
 現在もさらなる高性能化を目指して改良に取り組んでいます。今年の夏から冬にかけてのいくつかの国際会議での発表が決まっています。また、商品化の引き合いも舞い込んできました。ここでご紹介した技術が、地球の温暖化対策に貢献するよう、また宇宙プロジェクトを成功に導くよう、研究室一丸となって努力しています。

(たじま・みちお)


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