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宇宙科学の最前線

 フォトルミネッセンスを用いた太陽電池用半導体基板の品質評価〜1秒以下で微細な欠陥分布をとらえる〜

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HF水溶液浸法による超高速・高精度化

 PLイメージング法は、それだけでも十分強力な評価法ですが、すべての製造工程をモニターするためには、もうひとひねり工夫が必要です。製造工程初期のインゴットやブロックの状態、またそこから切り出された基板の場合、表面はそのままで特に処理をしているわけではありません。このような試料では表面状態が悪く、電子―正孔対が発光せずに再結合してしまうため、PL強度が低くなり、高速で正確な評価を行うことが困難になります。
 そこで我々は、デバイスの製造工程で一般に用いられるフッ酸(HF)水溶液が、非常に良好な表面状態をつくり出すことに着目しました。そして、図2に示すように試料を希薄なHF水溶液に浸し、表面状態を最良にしたまま品質を評価する「HF水溶液浸PLイメージング法」を開発しました。プラスチック容器越しに光を当てPL像を撮影するだけなので、振動もなく液漏れやガス漏れの心配はありません。また、希薄な溶液を用い短時間で測定できるので、安全性の問題もありません。これにより、インゴットやブロック、基板の状態でも高速・高空間分解能評価が可能となりました。



図2
図2  HF水溶液浸PLイメージング装置の概略図

 図3は、従来法にて多結晶Si基板を評価した例(左)と、HF水溶液浸PLイメージング法を用いて同一試料を同様の空間分解能にて評価した例(右)の比較です。暗い領域は品質の悪い部分を示し、黒い筋のように見えるのが基板の品質を特に悪化させている転位クラスターという欠陥です。
 これまで我々のPLマッピング装置では、世界で最高の性能とはいうものの、試料1枚当たり40分の測定時間を要していましたが、HF水溶液浸PLイメージングにより、測定時間が100ミリ秒まで劇的に短縮されました。また、基板の表面状態の影響を受けにくくなったため、より高精度に品質を評価できるようになりました。



図3
図3  太陽電池用多結晶Si基板の欠陥分布。左は従来法、右はHF水溶液浸PLイメージング法による評価。


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