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宇宙科学の最前線

固体ロケットの研究 世界一から世界一への挑戦

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打上げシステムの革新――次世代技術の開拓

 もう一つ特筆すべきは、打上げシステムの次世代化、すなわち小型衛星を高頻度にバンバン打てるような仕組みの構築です。そのために、次期固体ロケットでは組立や点検などの運用を効率化し、あわせて地上の点検装置や設備をコンパクトにして、打上げの準備に要する日数や人手を最適化する計画です。運用が簡単になるようにロケットの構造を新規設計しておくのはもちろんですが、鍵を握っているのはアビオニクス(搭載電気系)の改革です。
 次期固体ロケットでは、搭載系を高速のシリアルバスでつないで情報ネットワーク化するとともに、インテリジェント化して、打上げ前の面倒な点検作業をロケットが自律的に行えるようにしようという構想です。自律点検というと大げさなように聞こえますが、ほかの産業では特別なものではなく、例えば自動車のエアバッグの自動点検システムを考えると分かりやすいでしょう。エアバッグは衝撃を受けると小さな火薬が発動してガスをつくって膨らむという仕組みで、まさにロケットの点火系と同じものが私たちの車に載っています。その点検をいつやっているかというと、製造工場で済ましているのではなく、皆さんがエンジンをかけようとするたびに自動で点検を行って異常がなければ初めてエンジンがかかる、というシステムになっているのです。ロケットの点火系の点検は高度な安全性が求められるために、点検用のケーブルを一つ差すだけでも多大な手間と時間がかかります。それがこれからは遠隔で、しかも瞬時に終わってしまうというわけです。
 しかも、点火系の点検だけでなくほかの搭載系の点検もロケットが自律的に行ってくれるので、これまで管制室を埋め尽くしていた多種多様雑多な点検装置が不要になり、ロケットの管制は、極端にいうとノートパソコン1台で済むくらい簡単なものになってしまいます(図3)。なお、点検の自由度を拡大するために、機体のネットワーク機能を活用して、搭載系の内部を詳細にマニュアル点検できるような仕組みの構築も考えています。以前、私たちは移動できるくらいコンパクトなロケット管制を目指していると言っていましたが、現在では当初の目標をはるかに上回り、もはやロケットの管制は小脇に抱えられるくらいコンパクトなものになりそうな勢いです。これを私たちはモバイル管制と呼んでいます。この夢のような打上げシステムは、固体、液体にかかわらず、次世代のロケット技術の標準になるであろうと予想していて、輸送系の分野においても私たちが世界最高レベルを維持するために絶対に不可欠なものです。
 ロケットの打上げをもっと簡単で日常的なものにしたい。未来のロケットは、きっとサンダーバードのように毎週毎週飛んでいけるようなシステムになっていることでしょう。次期固体ロケットは、そうした未来のロケットへの大切な第一歩なのです。



図3
図3 次世代のロケット管制のコンセプト

まとめ

 最後のM-Vロケットが太陽観測衛星「ひので」を打ち上げてからはや1年余がたち、その間の研究の進捗により、次期固体ロケットのコンセプトはかなりはっきりとしてきました。私たちが目指すのは、M-Vロケットに比肩する高性能とコストダウン、そして次世代を切り拓く打上げシステムの革新です。もちろん、ユーザにとっての使いやすさを極めることはいうまでもありません。次期固体ロケットでは、固体ロケット固有の厳しいペイロード環境の緩和を重点課題の一つとして研究を進めるとともに、軌道投入精度の向上などのために小型の液体エンジンを搭載した速度調整ステージの導入をも視野に入れています。
 こうして、我が国独自の固体ロケット研究の歴史の歯車は、これまでよりもいっそう力強く動きだすことになります。世界一のM-Vロケットの後継機にふさわしい、申し分のないロケット開発になるでしょう。




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