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宇宙科学の最前線

地球の風、金星の風

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 このように金星の気象は、その特異な運動ゆえに、また惑星の気候形成の手掛かりとして、我々を惹き付けてやみません。この世界で何が起こっているのか、手に取るように見る方法はないものか……。そんな、惑星の流体圏に興味を持ってしまった者の究極の夢をかなえるのが、2010年に日本が打ち上げるPLANET-C(Venus Climate Orbiter)ミッションです(図2)。

図2
図2 金星に到着して周回軌道に入るために逆噴射をしているPLANET-Cの想像図。観測対象の一つであり赤外線のみで見える大気深部の雲をイメージとして重ねて描いてある。(画:池下章裕氏)


金星には東西冷戦期に米国とソ連が競い合うように探査機を送り込み、今また欧州のビーナス・エクスプレスが周回軌道上にありますが、PLANET-Cはそれらとはまったく違っています。いわば金星版の気象衛星で、冒頭の気象衛星のように大気全体の運動を動画として映像化します。ユニークな点は、人の目では見えない雲の下まで見通せる特殊な赤外線カメラなどを用いて、大気の3次元の動きをとらえることです(図3)大気循環のメカニズムや雲形成、雷放電などの理解を一気に進めます。


図3
図3 PLANET-Cは異なる波長の光を見る5つのカメラを使って、大気の異なる高度面を同時に可視化する。上から、雷や大気光(可視光線)、雲の温度分布(中間赤外線)、雲頂の化学物質やヘイズ(紫外線)、地表面や水蒸気(近赤外線)、下層の雲や化学物質(近赤外線)。(画:池下章裕氏)


 このようなミッションが、これから我が国のお家芸になるかもしれません。同様のアイデアを火星や木星に応用する、気球を浮かべて詳しく調べるなど、いろいろな構想があります。変動する惑星大気圏の姿を臨場感をもって伝えることで、人類の地球観が少し広がるならば、うれしいことです。研究者でもない一般の人たちが、天気予報を見て地球のエネルギー収支に思いをはせたり、金星や火星の天気に比べてどうかしらと思ったりする社会は、夢物語でしょうか。
 まずはPLANET-Cを成功させることです。打上げ前には明星神社に参らねばなりません。

(いまむら・たけし)




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