宇宙航空研究開発機構 サイトマップ

TOP > レポート&コラム > 宇宙科学の最前線 > ジオスペース最高エネルギー 粒子誕生の謎を追う 放射線帯の研究

宇宙科学の最前線

ジオスペース最高エネルギー 粒子誕生の謎を追う 放射線帯の研究

│3│

第24太陽活動期に向けて--ERG計画--

 これまで述べてきたように,1990年代以降の放射線帯の研究は,磁気圏赤道面での観測がないことによる大きなフラストレーションの中で進められてきました。このような状況を打開するために,2010〜2012年に予想される次の第24太陽活動極大期に向けて,磁気圏赤道面での世界的な放射線帯探査計画が,International Living With a Star(ILWS)という国際共同プログラムの中で立案されています。ここではRBSP衛星(米国),ORBITALS衛星(カナダ)といった計画が提案されており,これらの複数の衛星によって,放射線帯の中で異なる場所(距離,地方時)を同時にカバーしながら観測していくことが計画されています。そして私たちも,国際的な観測計画の一翼を担う形で,ERG(Energization and Radiation in Geospace)というプロジェクトを現在検討しています。

図3-1

図3-2
図3 ERG衛星の想像図(上)とジオスペースの中での探査領域図(下)


 図3にERG衛星の想像図,および探査領域を示します。ERG衛星は,磁気圏赤道面において,放射線帯粒子の加速に関連するプラズマ粒子,電磁場,波動を同時に,かつ十分に広いエネルギー範囲・周波数帯で観測することで,「外部供給説」と「内部加速説」を切り分け,それぞれのメカニズムの詳細な解明を目標にしています。また,米国やカナダの衛星計画との協力により,これまでにない規模でジオスペースの包括的な探査を実現します。

 さらにERGプロジェクトでは,ERG衛星による観測を補強する形で,近年急速に発達してきた地上からのリモートセンシング技術を活かすべく,地上観測もプロジェクトの一部を担っており,ジオスペースを宇宙から,そして地上から同時に探査することを計画しています。また,IT技術の進化に伴って,ジオスペース研究においても,従来のコンピュータでは難しかった大規模な数値シミュレーションが行われるようになっています。ERGプロジェクトでは,こうしたジオスペースのシミュレーションを行っている研究者も参画して,「衛星による観測」と「地上からのリモートセンシング」を「数値計算」を通じて結合するなど,三者が一体となって,ジオスペースにおける高エネルギー粒子生成過程を理解しようとしています。

 高エネルギー粒子加速の問題は,地球磁気圏だけではなく,惑星磁気圏,天体磁気圏での粒子加速にもつながる普遍的な問題です。遠くの惑星や天体では難しい「加速の現場の直接観測」が唯一可能な領域であるジオスペース。ERGプロジェクトは,そのジオスペースで,最も高いエネルギーの粒子が生まれている現場を探査し,粒子加速メカニズムを解明することを目指しています。

(みよし・よしずみ)



│3│