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宇宙科学の最前線

アナログ集積回路のすすめ

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 しかし,商用のバルクCMOS技術の成熟速度が急過ぎて,SOI-CMOSは性能的に追従することができず,しばらくの間,特殊用途に限定的に適用されるにすぎませんでした。ところが,1990年代に入って,バルクCMOSの技術成長曲線に飽和傾向(いわゆるムーアの法則からの遅れ)が見られるようになり,これを克服する手段としてSOIが見直されるようになってきました。すなわち,SOI技術を用いるとラッチアップの回避という自明な効果のほか,最先端のサブミクロンバルクCMOSの性能(動作周波数,消費電力,漏れ電流,集積度など)を凌駕することができることが分かりました。SOI技術は,このようにして,いわゆるポストスケーリング技術(微細化に頼らない性能向上技術)の先取りとして理解することもできます。

 そうはいっても,Open-IPで用いられている回路構成をそのまま適用することができるか否かは自明ではありません。そこで,アナログ回路の要素の中でも,最も半導体プロセス固有の特性に影響を受けやすい放射線計測用の前置増幅器およびその周辺回路の試作を行いました。図3には,増幅要素の回路図を例示しました。半導体プロセスは,0.15μmの完全空乏型のSOIプロセスを用いました。ゲート直下のシリコン部分から完全にキャリアーが排除されていることから,従来技術である部分空乏型のSOIと比べてI-Vカーブに現れる異常な折れ曲がりが解消されているなど,アナログ回路への応用にとって有利な特徴を有しています。

 試作回路は,2.4mm×2.4mmの小さなチップの中に,CRの時定数によって信号が減衰するようになっている回路と,時定数の代わりに直線的に信号が減衰するようになっている回路と,高速のトランスインピーダンス回路とを,バリエーションを含めて都合10系統実装しました。第一の回路は,伝統的な荷電敏感型の増幅回路であって,1/f雑音などの電子雑音を容易に評価することができます。第二の回路は,出力信号が飽和しても,入力電荷と出力信号幅との比例関係が良好であるという特徴があり,電源電圧の制限に対して一つの解を与えるものとなっています。第三の回路は,電流信号を電圧に変換する回路ですが,帰還要素として低電流でバイアスされたMOSトランジスタを用いた回路となっており,より高周波での応用への展開を狙うものとなっています。


図3
図3 SOIプロセス用の増幅器の構成例
電源電圧が1Vであるにもかかわらず,トランジスタを4段に積み上げることができる。また,トランジスタが実質的に三端子素子として取り扱われていることも特徴的である。


まとめ

 宇宙科学研究本部では,宇宙機における電子回路の高度化,高信頼化を目指して,具体的応用事例を踏まえながら,その設計の容易化による適用事例の拡大と,半導体技術の将来を見据えた研究開発を進めています。前者はOpen-IPの手法を展開することによって,後者はSOIプロセスなどに代表される先端技術の追求によって,その成熟度のステップを高めています。

(いけだ・ひろかず)



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